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秀逸な記録映画『トラベリング・ウィズ・ゲバラ』、そして贅沢な音楽

秀逸な記録映画『トラベリング・ウィズ・ゲバラ』、そして贅沢な音楽
トラベリング・ウィズ・ゲバラ

 チェ・ゲバラの実像を少しでも知りたいと思うなら、おそらくヒット作となり、アカデミー賞で主題歌曲賞を受賞した劇映画『モーターサイクル・ダイアリーズ』より、とは言わないまでも本作『トラベリング・ウィズ・ゲバラ』(ジャンニ・ミナ監督/120分)も無視できない映像資料として強調されるべきだ。
 『モーターサイクル』は、ウォルター・サレス監督のゲバラ解釈であって、資料としては傍系。むろんサレス監督がこれまで『セントラル・ステーション』や『ビハインド・ザ・サン』でブラジルの風土と人間を慈しみながら洗う批評眼、叙情に流されない乾いた冷徹な視線には敬意を払うものだが、そのゲバラ像は監督の視線で濾過された個人的な解釈だ。むろん、記録映画『トラベリング』も制作者の作為はあるが、流れるまま気張らず撮っていこう、というような気配があって少しも押し付けがましいところがなく好感と信頼性を抱かせる。
 『トラベリング』の主役は1952年にゲバラ23歳と同行してモーターサイクル“ポデロッソ”号を運転したアルベルト・グラナードである。82歳となった彼の証言が主役である。あるいは、50年の歳月そのものが隠れた主人公なのかも知れない。
 『モーターサイクル』は実際に南米大陸を縦断しながら撮影されたロードムービーだが、その旅にグラナードは6ヵ月間も随行したのだ。ロケ班に寄り添いながらグラナードはゲバラとの旅を追想し、サレス監督の演出に示唆を与えてゆく。
 『トラベリング』の試写はたった一度、しかも早朝という“業界人”がもっとも集まりにくい時間に行なわれた。かつ公開直前の試写であった。公開一週間前後にやっと試写ということで思い出すのは、故渥美清さん主演の人気シリーズ『男はつらいよ』だが、それは前宣伝不要で大入りが期待できたから、山田洋次監督はぎりぎりまで編集作業に没頭できたのだった。しかし、『トラベリング』は最初から興行での成功などまったく期待している様子はなかった。試写もスケジュールとしてこなされただけという印象だった。案の定、試写会場となった東京・恵比寿のシネマガーデンには配給会社のスタッフを除けば20人前後の人しか集まっていなかった。公開も一日一回のレイトショーのみ、しかも10日前後で打ち切られた。勘ぐれば、DVD化の際、「2005年劇場公開作品」といったアリバイ作りの興行であったように思えてしまうのだが、作品そのものは公開の不遇に関わらず、極めて充実したものだ。
 先にグラナードの貴重な証言と書いたが、それは正鵠を欠くだろう。証言というより、旅における友ゲバラの居ずまい佇まい仕草、行きずりの人に対する接し方などを雑談のなかでもらすグラナードの言葉そのものの貴重さなのだ。覇気に富んだ若者ふたり、寝食をともにする長旅をすれば、しばしば罵詈雑言が飛び交うだろう。殴り合いがなかったのが不思議なくらいだ。そういう旅の日常のなかで感情の起伏をみせるゲバラの真実が語られてゆく。おそらく、ゲバラを演じたガエル・ガルシア・ベルナルの役作りに大いに貢献したものだろう。そのガエルが撮影の合間にインタビューに応えていて、その様子も収録されている。
 ガエルの少年時代、故郷メキシコ中西部ミチョアカン州の家には軍事独裁下の中南米諸国から逃れてきた政治亡命者たちが出入りしていたそうだ。中南米諸国が悪辣な軍事独裁政権下にあった時代、メキシコは掛け替えのない逃避地であった。そういう時代にガエル・ガルシアは少年時代を過ごしていた。そして、彼は「家では絶えず各国の活動家が議論していた。そんな彼らの熱気に満ちた議論に耳を傾けながら育った」というのだ。
 サレス監督のインタビューも収録されていれば、ゲバラが訪れた鉱山で働く労働者たちの現在の姿を取材し現状報告もしている。労働者の健康など一顧だにされない職場で病んだ男たちが、ゲバラを否定的に語っているのをみるのは辛い。しかし、それも現実だ。そういう証言も本作では割愛されることなく取り込まれている。
 それから、本作で強調しておきたいことがある。ラテン音楽ファンには見逃せない映画なのだ。全22曲が実に贅沢なのだ。
 カルロス・プエブラのアノ有名なゲバラ讃歌「アスタ・シエンプレ」が流れるのは、この種の映画としては芳しい気流のようなものだろう。南米の反独裁を象徴するようなインティ・イリマニやビオレッタ・パラの歌もあるが、プレス・プラードの「マンボNo5」とか、ルチョ・ガティカ(チリ〉、チャブーカ・グラナダ(ペルー)といったようにゲバラとグラナードが彼の地を訪れたとき巷に流れていたであろう曲が、そのまま使われているのだ。サントラ盤にすれば、《あり日のラテン名曲集》といったサブタイトルでもつけたいところだ。「あぁ、ゲバラの青春とは、こういう音楽が民衆に愛されていたんだな」と確認できる結構となっているのだ。
 どんな偉大な人間も、時代の厳しい制限のなかでしか活動できないというテーゼを知れば、その時代を象徴した大衆歌謡の数々はゲバラ論の必聴資料なのだ。そういうことをあらためて確認させらる「音楽」であり、かけがえのない時代資料として意識的に使用されている。
 記録映画『トラベリング・ウィズ・ゲバラ』は、映画『モーターサイクル・ダイアリーズ』のコレクターズ・エディションの特典ディスクとして発売される。いわば付録扱いだが、努々(ゆめゆめ)軽んじることなきように。          
▼DVDの発売は、アミューズソフトエンタテインメントから。www.amuse-s-e-.co.jp/ap

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No title

ゲバラのファンですがまだ 『トラベリング』は観てません

同じ題名でグラナードスが書いてる本がありますね。ゲバラの日記と違う視点で南米旅行日記が書かれててオススメです

アスタシエンプレはこないだ自作の日本語訳歌詞をブログに掲載してみたので、
興味があれば遊びに来てください

No title

映画「トラベリング~」はもうDVDでしかみられませんが、「モーターサイクル~」とのカップリング版でしか発売されていないので、なかなか視聴が難しいようですね。その一般発売版の「トラベリング」での刷り物のなかの使用音楽の表題とか歌手の表記などは、ぼくが担当しました。
アスタシエンプレは、ぼくもどこかで翻訳しましたが、いまはどこに埋もれてしまって探索中です。そのうち、ぼくも掲載したいと思っています。
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