スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

映画『ブローン・アパート』 シャロン・マグアイア監督

映画『ブローン・アパート』 シャロン・マグアイア監督
T0009675a.jpg

 原作はオサマ・ビン=ラディンへの手紙という語り口で綴られたクリス・クリーヴの小説『息子を奪ったあなたへ』。
 ビン=ラディンの名があるように本作は混とんした今世紀初頭の世界に生きる人びとへ、〈愛〉が普遍性をもちうるなら、という愚直な命題を抱えて制作されているように思う。平凡な日常が政治的な力学、ないしは歪みのなかで一瞬にして壊れる。事件は一瞬だが、悲劇から生き残った者、あやうく免れたものを永遠にさいなむことがある。それは誰の身にも起きることだが、起きない可能性が高い、というかいなでの信仰を信じて生きるしかない。それが現代社会の皮層だろう。
 ロンドンが舞台。英国はサッカー国だ。そして、中東外交では米国と軌を一にして武装介入をつづけてきた国だ。イスラエル建国、パレスチナ問題ではその歴史の当初から血塗られた手をもつ国としての責任は免れない。そして、地球規模で植民地収奪をしてきた英国は、植民地の独立とともに移民、労働力としての移入を拒めなくなった。都市部は多民族多宗教化しイスラム原理主義のテロリストたちが地下活動しやすい環境ができた。
 主人公は“若い母親”(ミシェル・ウィリアムズ)。名前が与えられていない。いわゆるどこにでもいるような存在と設定される。そして、彼女の5歳の息子にも名前は与えられていない。けれどふたりを取りまく登場人物には名は与えられている。物語は、名を与えられていない母子を象徴する。いわば現代版「聖母子」像なのだ。
母子の愛の絆……という民族、国籍を超えた普遍性をキーワードがまずある。そのキーを基層として語りかけることによって、無差別性のテロを「政治」の垢にまみれない何故W、という素朴な視点から糾弾するともに、テロの温床となっている貧困、世界政治の矛盾まで指弾する。“若い母親”の日常語の世界で告発しようとしている。
 “若い母親”はその日、息子と夫をサッカー観戦に送り出した後、ゴシップ記事が専門という若い新聞記者ブラック(ユアン・マクレガー)と情事に耽る。そのベッドのそばにおかれたテレビから息子たちがいるスタジアムが映し出され、今まさにアーセル対チェルシー戦の中継が始まろうという刹那、テレビは爆音を発し、画像は途切れる。満員の観客とともにスタジアムは自爆テロで破壊されたのだ。
 アフガニスタン、イラク戦争に米国ともに戦闘部隊を派遣した主要国である英国はいつでもテロを受ける可能性がある。〈9・11〉の悲劇をみた英国人の既視感が、本作のような映画をつくりだすのだ。
 テロによって息子を失った“若い母親”の懊悩の日々がはじまる。情事のさなかに愛児を失うという禍根は癒しがたい。彼女に惹かれてしまい、悲劇を共有することになったブラックも、自分の職分を超えて、「なぜテロを未然に防げなかったのか?」と取材活動を開始する。その過程で自爆犯の家族を知る。そこにもうひとつの悲劇があった。
自爆犯の妻と、息子。“若い母親”は、その少年に成長したわが子の面影をみるように、自ら心のふれあいを求める。
 ブラックの取材で警察は、その日、どこかのスタジアムで自爆テロが行われるという予兆を把握していたことを知る。しかし、場所は特定できなかった。最善は試合をすべて中止にすることだが、予兆であって絶対ではない、という曖昧さのなかで警察は黙過し災厄を招く。誰も責められない状況。自爆犯を糾弾したところでなにも解決しない。彼にとっては“聖戦”であり、イスラム社会では“殉教者”だろう。いま、世界は価値紊乱の錯綜状態にある。けれど母子の愛情は普遍的な価値をもつものだ。それをキーワードとして〈平和〉と〈正義〉を模索するしかないのだ……と映画は問いかける。
 象徴的なシーンがある。“若い母親”は絶望のなかで投身し自死しようとする。その時、体内から突き上げてくる鼓動を聴く。生命の宿り。彼女を癒す子の芽生え。彼女は蘇生する。
 人間は愚行を繰り返しながらも、あたらしい生命をこの残酷な世界に生み落とし、また愚かな歴史をつくってゆく。そう、せざるえない人間の営み。いきがたい日々をわれわれは生きて行くしなかい。

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

上野清士

Author:上野清士
店長の最新著書

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
カレンダー
08 | 2017/09 | 10
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
FC2カウンター
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。