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映画『ジャマイカ 楽園の真実』ステファニー・ブラック監督

映画『ジャマイカ 楽園の真実』ステファニー・ブラック監督
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 カリブ海のジャマイカといえば太陽の輝きだ。レゲェの発祥地である。ブルーマンティンの芳香、ラム酒の濃密……。それが外国人観光客が呼吸する西インド諸島の輝き。太陽の輝きが烈しければ、影はより濃いはずだ。その影に映画のカメラは焦点を合わせる。
 ジャマイカ北西部の観光都市モンテゴベイの空港に米国のノー天気な観光客の集団がざわざわと降り立つシーンからはじまる。
 モンテゴベイはほんとうに綺麗な港町だ。カリブ諸国で多くの港をみてきたが、そのなかでも飛びきりの美港だと思う。熱帯雨林が生い茂る細い半島が海を内陸に引き込み、天然の良港をつくった。港は、空、樹木、そして海と三つの自然美のなかに溶け込んでいる。その港からしばらく走ると、道はT字路になっていて、観光客を乗せたバスは左に折れてリゾートホテルに向かい、港湾ではたらくジャマイカ人の大半は右におれて市街地にむかう。
 客船や旅客機から吐き出される観光客は、ジャマイカ人にとってはモノ言うドルの札束に過ぎない。飛行機や船から吐き出されたモノ言う紙幣に過ぎない。しかし、彼ら観光客は善人である。家庭では良きパパでありママであるはずだ。実直に働く労働者であるだろし、その日常はけっして華やいだものではないだろう。だから、一年に一回、いや数年の一度のことかも知れないが、大枚はたいてカリブの太陽を愛(め)でにやってくる。しかし、その米国人のつかの間の、そして悪意のない放埓な行動は、本作のなかでぶざまな狂言回しを演じることになった。
 筆者も一度、モンテゴベイにスノッブな客船の船客として物見遊山な停泊行をしている。港からさほど遠くないところ、けれど観光客がけっして望見できない場所に関税特区があって、そのなかに外資の縫製工場がある。そこで働くジャマイカ人労働者たちは団結権もなければ、労働基準法の恩恵もなく、まったく無権利のまま劣悪な状況で働いている。経済特区はいま途上国のそこかしこにあるが、そこはかつて、そう中国・上海にあった「租界」のようなモノで、中国であって中国の施政権のおよばない植民地である。治外法権の地だ。それを知る者にはまことに居心地の悪い停泊行であった。湿度の濃い大気は、貧富の格差がもたらす瘴気(しょうき)を含んでいた。
 モンテゴベイの市街地は総じて軒低く貧しい。冷房の効いたスーパーマーケットに逃げ込み、そこで商品棚を眺めれば輸入品の小規模見本市であることを知る。熱帯性のフルーツや香辛料が詰まった缶詰さえ輸入品であったりする。それがこの国の矛盾、貧困の大きな理由である。
 「私の政治生活のなかでもっとも禍根を残すのは、国際通貨基金(IMF)から融資を受けたことだ」と映画のなかで語るのはマイケル・マンレイ前首相(故人)。レゲェの故ボブ・マーリィが支持した穏健な社会主義者である。
 独立以来、借金財政をつづけていたジャマイカはIMFが課す構造調整プログラムにしぶしぶ妥協し、融資を受けることができた。前首相は祖国の経済破綻を一時的に糊塗するため選択の余地なくIMFに従った。しかし、強いられたプログラムは外資の流入を促し、農産物の関税も強制的に撤廃され、同国の貧しい農民が生産する新鮮な農産物より、輸入作物の方が廉価になるという歪んだ現象が生まれた。それは経済規模の小さな農業国にとって壊滅的な事態を引き起こした。今日、同国の負債は45億ドル以上に及び、その元金を返すどころか金利を払うだけで精いっぱいの状況に陥った。そのため一般賃金は抑えられ、公共部門は人員削減を余儀なくされ社会福祉政策はとことん後退した。
 ジャマイカが舞台の映画だから必然、レゲェが流れる。しかし、それは憂鬱なものだ。ボブ・マーリィやピーター・トッシュが歌で訴えた矛盾、社会正義の希求はいまだ達成されていない。それどころか、「正義」も「希望」もはるか彼方の水平線に後退した。外国人観光客にとっては「楽園」だが、「楽園」を演出するために働くジャマイカ人たちの生活はあまりにも深刻だ。そうしたことが諄々と説かれる映画だ。
*余談だが、米国映画ではボブ・マーリィのレゲェが流れることが少ない。彼の社会的メッセージ性が毛嫌いされるのかも知れないし、いっかんしてレゲェに対して冷ややかだった米国のポップス界の性癖を反映しているのかも知れない。……主演作はたいていメガヒットするといわれるウィル・スミスの映画に、『アイ・アム・レジェンド』(2007年)があった。行き過ぎた遺伝子操作がもたらした汚染によって人類がほぼ死に絶えるようかという状況のなかで、独りぼっちの医学者役のスミスが免疫を求めて孤軍奮闘するストーリーだが、彼が空閑となった部屋のなかで慰安をもとめる音として登場してくる)。

 手前味噌になるが、拙著『南のポリティカ』で、「ジャマイカ現代史を生きたレゲェ」、「国際通貨基金は、合法的サラ金か」を収載してある。その二編はそのまま映画の解説に採用できる。是非、読んで欲しい。読みながら暗澹たるイメージ、IMFへの怒りが形象化できたら、それがこの映画のコアである。
 本作の原題は〈生活と負債〉。転じて、「ジャマイカ民衆とIMF」となる。IMFは米国の影響が突出して強い国際機関だ。つまり米国流のグローバリズムを途上国に浸透させる溶剤として機能している。自然とともにいきるジャマイカの賢者であるラスタたちはグローバリズムを「バビロン・システム」と語る。「悪徳のシステム」と。

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