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コロンビア映画『そして、ひと粒のひかり』 21世紀の処女懐胎の物語

コロンビア映画『そして、ひと粒のひかり』 21世紀の処女懐胎の物語
ジョシュア・マーストン監督
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 17歳……ラテンアメリカでは“成熟した10代”である。
 ほんの一部の富裕層の子弟を除けば、17歳の“大人”にも社会は容赦ない積荷を細い肩に乗せてくる。それに耐えられない者は冷酷に切り捨てられていゆくだろう。それが先住民共同体ともなれば“成熟”は15歳にもなり、時には13歳、12歳でも強いられるものだ。そんなラテン世界から嵩高い重量で着払いで送りつけられてきたのが本作である。北の観客は、受け取りにサインをし、支払うことが義務づけられている、と思って劇場に足を運ぶべきだ。
 コロンビアの首都ボゴタを取り囲む峡谷の狭間で息を潜めるように佇んでいる田舎町。その町の唯一の企業が輸出用の花卉を栽培する農園工場。その農園でバラの棘で指先を血で染めながら働く17歳の少女マリア。彼女の労働に、初老の母親と、薄情な男に見捨てられ乳幼児を抱えて失職中の姉の生活も掛かっていた。うんざりするが仕方がない。家にはマリアの父親が不在だが、その理由などいっさい触れない。ラテン社会では常態であって、いちいち詮索していたら切りないという態度だ。それこそリアリズム。
 マリアのおなかには、これまた頼りない恋人の子が心音を刻みはじめていた。避妊の充分な知識もないまま性の成熟を迎えてしまった少女たちが遭遇する“失敗”だが、この社会では悲劇には至らない。性の快楽を知ってしまった17歳の少女なら、その代償としての妊娠を従容と受け入れるものだ。しかし、現実の生活は待ったなしにマリアを急(せ)き立てる。
 偶然、米国へ麻薬を運ぶ、ミュール(運び屋)の仕事を知る。空っぽの胃袋に密度の濃い麻薬を極太の錠剤にして呑み込み米国に肉体もろとも“空輸”する仕事だ。近年では、日本でも空港で摘発されている。コロンビアから米国へのミュールの代金は5000ドル、邦貨で55万円と映画は語る。錠剤の包装が胃液で溶けたり、傷つけばミュール本人は確実に死ぬ。あるいは空港で摘発されれば、そのまま刑務所送りとなる。日本人はいうに及ばず北の人間なら誰だって、そんな金で命を投げ出す真似はしない。しかし、そんな「端た金」で生命の賭けに出る若者は後を絶たない。それが世界の現実である。ミュールの無惨は、筆者が暮らしたグァテマラやメキシコの新聞にも連日のように掲載されていた。それでも運び屋志望者の列は途切れない。北と南の圧倒的な貧富の格差がある限りつづく。
 マリアはバラを輸出用に包装する仕事に携わっていた。そのバラの行く着く先も米国。コロンビアは正規の外貨獲得手段として、まずコーヒーがある。ブラジルに次ぐ世界第2の生産国だ。バナナもある。熱帯高原の湿潤な土地で栽培される花卉の豊穣も捨てがたい。エメラルドもあれば、石油もある。それでもこの国の貧富の差は深すぎて埋まらない。この格差こそ、この国をして世界有数の麻薬生産・輸出国へ成長させた。
 米国に麻薬の巨大市場を開拓した組織はコロンビアの地下経済を牛耳り、国の政策すら左右させる。映画は、そうした経済構造を解き明かしたりはしない。ひたすらマリアの視線で地を這う虫瞰図式的に日常を切り取ってゆくのだ。
 マリアは62の特大の麻薬錠剤を胃に収め、3ヶ月の胎児もろとも米国入りに成功する。
 米国の税関で、「胃の中に麻薬があるはず」と難詰されながら、妊婦であるためレントゲン投射を免れる。5000ドルを手にしたマリアは観光ビザの失効を知りつつ“新世界”に埋れてゆく。
 強制送還されない限り、お腹の子は属地主義で米国籍が与えられる。コロンビアの貧困のなかに残るその子の頼りない父親は、マリアにビザの失効を覚悟させた啓示であるだろう。マリアの母なる意思こそ、21世紀の処女懐胎の物語のように思えてくる。     
    

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