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映画『ジャック・メスリーヌ』 ジャン=フランソワ・リシェ監督

映画『ジャック・メスリーヌ』 ジャン=フランソワ・リシェ監督

 ジャック・メスリーぬ
1970年代の配給会社なら〈実録・怪盗ジャック〉といった煽情的なタイトルで当時のアンチヒーロー待望熱にこたえたはずだ。「仁義なき戦い」の深作監督が好みそうな一匹狼の実録モノ。
 第二次大戦後のフランスはナチ・ドイツへ協力した「非愛国者」と、命を賭けてレジスタンスした「愛国者」とが掘り込んだ深いはざ間の底の薄くらく重い憂鬱のなかから出発した。その後遺症が癒されないままフランスの若者は帝国主義的戦争に抑圧者として狩り出されていった。
 フランスは大戦後、植民地で台頭する独立への機運を武力で抑え込もうとした。ド・ゴール政府は植民地戦争を「国内紛争」としジュネーブ協定を無視し、アルジェリアやインドシナでナチに劣らない残虐行為を繰り返した。
 映画はアルジェリアの独立闘士をフランス軍が卑劣きわまりない拷問で自白を強いるシーンからはじまる。その場に後年、世界中を震撼させた一匹狼のギャング、フランスの戦後思潮を象徴したジャック・メスリーヌがいた。確か、彼の自伝は70年代に日本でも翻訳されたと思う。
 映画は、後年、銀行強盗を繰り返し、殺人をためらわない(が一般市民は殺傷しない)ジャックの生き様を描く。彼に殺されるのは警察官かギャングである。そして、逮捕された後も創造的な信念によって不可能と思われた監獄からの脱獄を繰り返し、庶民の〈喝采〉をあびる。そうした裏人生を彼に強いたのはアルジェリアで善悪の彼岸をこえて理性を失った権力装置としての軍隊経験があったはずだ、と映画は問いかける。
 ジャックがアルジェリアで残虐行為に加担したかどうか、それはわからない。そういうことがあったとしてもなんらおかしくない、ということだ。
 アルジェリアから復員したフランスの青年は戦後、たいてい良き夫となりよき父親となって過去を封印した。それは日本でも同じだ。中国で強姦を繰り返した兵士も復員すれば良き夫として戦後復興に貢献する勤勉なサラリーマンとなったのだ。
 ジャックは除隊すると、その足で家族のもとに帰る。しかし、その家族もフランス現代史の重い影を背負っていた。父はナチ占領下でドイツへの走狗となった警察官だった。それに対する反撥もジャックにはあったはずと映画は暗示する。
 評者は本作をジャン・ギャヴァン以来のフランス映画伝統のギャング映画の系譜において見た。その仕上がりは玄人好みだ。しかし、影のテーマは大戦後フランスの光と陰をジャックの生き様に象徴させて描かくことにアリとみた。だから、評者には2つのドラマが同時展開しているように思え、パート1、パート2、合わせて約4時間の長尺もまったく気にならなかった。監督のよどみない演出は見事だし、戦後フランスのファッションの推移、戦後風俗の変遷をグラフィックに見せ(金が掛かっている)、その方面に興味のある人も満喫させよう。
 ジャックは1979年11月、警察隊の待ち伏せにあって無抵抗のまま蜂の巣にされて殺される。享年43歳。そうして……ひとつの時代が終わった。
 1970年代の共同幻想は実現不可能な〈妄想〉を誰もが抱えていたことだと思う。
 今日より明日の豊かさ、絶対平和、進歩・発展……みんな崩れていった。自己顕示欲の強かったジャックはその象徴的な存在であった。そして70年代最後の歳に殺された。あまりも象徴的であったがゆえフランスではヒロイックな〈悪党列伝〉の巻頭を飾ることになった。
 〈妄想〉は夢の領域。その夢をみることができた70年代は評者自身の体験からしても楽しかった。「青春」は貧窮のなかにあっても、軍事独裁下であろうと、鉄のカーテンの内側であろうとも、若いということはそれだけで自ら光源となれる。そう、評者にとっても70年代は、貧しかったけど、心地よい胸騒ぎがあった。いま、そんな胸騒ぎの至福も消えてしまった。本作がフランスで空前のヒット作となった背景には現代の閉塞感から逃れたい、という庶民の思いの反映ではないか?   

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