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映画『エル・カンタンテ』 レオン・イチャソ監督

映画『エル・カンタンテ』 レオン・イチャソ監督
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 ニューヨーク・サルサの伝説的歌手エクトル・ラボーの評伝映画であり、そのエクトルを現代サルサ界でもっとも稼げる歌手として不動の人気を誇るマーク・アンソニーが演じた。エクトルに同化した演技をみせる一方、エクトルのヒット曲を歌いながらも真似ではないアンソニー節に消化して歌い切ってやろうという静かなプライドが横溢している。当然、アンソニーのサントラ盤は記録的ヒットとなった。
 エクトルの妻役をマークの実際の妻である人気女優ジェニファー・ロペスが演じた。という意味ではトリプルな話題性をもつ恵まれた映画なのだが、日本では興行的に強い「売り」要素とはならなかったようで、公開が3年も遅れた(2006年制作)。お蔵入りにならずともかく陽の目をみたことをラテン音楽ファンとして率直に喜びたい。なにせロペスがテハーノ・ポップスの女王を演じて、彼女自身、歌うことに目覚めたといわれる映画『セレーナ』は日本では劇場公開されずビデオ化での発売だけに終わったというお寒い現状を知れば、本作の公開が遅れしまったのも無理ないかも。
 主人公のエクトルはいうまでもなくサルサをラテン音楽の主流に押し上げた功労者のひとり。46年の短い生涯は映画化にふさわしいドラマチックなものだった。やがて、こうした評伝映画が制作されることは誰しも思っていただろう。しかし、サルサ・ファンに限らずラテン音楽のメインストリートを歩いたエクトルを演じるにはサルサの心を体現する俳優しか演じられない。という意味では映画俳優としても大いなる実績をもつアンソニーをおいて考えられない。適役とはこうしためぐり合わせをいうのだろう。
 ただし、エクトルの声質とアンソニーのそれは違う。個人的な嗜好では、アンソニーの低音部にのびのあるしなやかな声を好ましく思っているから、エクトルの声は少々、甘すぎるのである……評者には。しかし、過剰な喫煙、酒、ドラックを手放せなかったエクトルのが声がそうしたものにまったく侵されなかったのは奇跡といってよいだろう。健康でありさえずればいまもヒット曲を飛ばしている才能であった。エイズにも侵され、独り子をピストル事故で失ったエクトルの日常生活はさぞデスペレートで背徳的な陰鬱さに満ちたものであったはずだ、と想像できる。映画はそのあたりをかなり強調してみせているし、耽溺の日々のなかでもステージにあがれば観客を存分に酔わせるプロ魂の持ち主であったことも描かれる。
 そんなエクトルのざらざらした日々につきそう妻は気丈でなければ勤まらない。それをロペスが見事に演じ切っている。率直な感想をいえば、表題は「エル・カンタンテの妻」と改題したほうが良いほどロペスの演技が目立つ作品だし、出番自体も多い。なんとなくアンソニー=ロペス夫妻の日常的な立場が反映されているようで興味津々である。
 しかし、音楽映画とみれば、やはりアンソニーの映画であって、サントラのヒットでも証明されているように彼の代表作となるものだ。ロペスは妻役に徹し、歌手ジェニファー・ロペスの存在はいっさいかき消されている。
 ミュージカル映画の古典『ウエストサイド物語』はニューヨークのプエルトリコ人地区に住むニューヨリカンの若者たちの話だった。エル・バリオと呼ばれた彼らの居住区と接するイタリア人地区の若者との勢力争いを背景に、ロミオとジュリエット譚とした作品だった。その映画に登場したニューヨリカンたちも成人し、やがて結婚し家庭を持ち子を持つ親となる。生活の現実が彼らに怒りの矛を収めさせ、諦観が忍び寄る。そうしたウエストサイド物語世代を親に持っているがロペスやアンソニーの世代である。その間の1970~80年代のはざ間を埋め、橋渡ししたのがエクトル・ラボーである。ラボーの歌は、ウエストサイド世代の諦観におおいに癒したのだった。表題の「エル・カンタンテ」を直訳すれば、「歌手」、歌い手といった意味だが、ここでは「歌手のなかの歌手」との献辞も含まれる。   

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