スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

マーガレット・レン・タンのトイ・ピアノ

マーガレット・レン・タンのトイ・ピアノ
  ……そして、高橋悠治のトイ・ピアノ作品「原発切抜帖」

 まったく稀有な音の鑑賞会に出会った。
筆者の世代は「卓上ピアノ」といっていたものだが、現在はトイピアノ、つまりオモチャのピアノによる演奏会である。ソリストはシンガポール出身の中国系女性マーガレット・レン・タン。現在はニューヨークに居を構え、旺盛な活動を展開中。ジョン・ケージ晩年の最良の弟子。トイピアノだからペダルはない。音源は長さの違う細い鉄棒を叩くだけの仕組み。調律は不可。出来合いの音色のみ。長身のマーガレットはやや窮屈そうに床に足を投げ出し、小さな椅子に座って演奏する。その姿形がなにやら南アジアのアコースティックな伝統楽器を演奏するような風情であり、チャイナ風のステージ衣装だから、どこやら、しどけない大人の女のエロチシズムも醸し出され、なかなか良いのである。いやいや色香に惑わされてはいけない。
マーガレット・レン・タン

 マーガレットの紡ぎ出す音色を聴きながら突然、20年以上も前のトイピアノ体験を思い出した。映画のサントラとして、その音色はあった、と脳裏に浮かんだ。で、マーガレットの演奏会が終わった当夜、はるかな記憶を手繰り寄せ、ネットで検索をつづけながら、やっとたどり着いた。それは1982年、ドキュメンタリスト土本典昭が撮った45分の短編映画『原発切抜帖』を映し出すスクリーンから聴こえてきたのだった。作曲と演奏は高橋悠治。そうジョン・ケージのピアノ内部演奏、ピアノ線にモノをはめ込んだりして特殊な音色を作り出すもので、これをプリペアド・ピアノというが、こうした“怪演”も残す一方でバッハ、エリック・サティの卓抜な弾き手でもある悠治さんのトイピアノだった。で悠治さんのCDのなかに『原発切抜帖』は収録されているのかと探したが、それはなかった。しかし、映画はDVD化されているので、それで聴けるわけだ。
 その悠治さんの自作自演のトイピアノを思い出しながら、マーガレットのケージ作品などを聴いていたのだが、このシンプル極まりない「楽器」の拡大表現を意図するあまり現代音楽としての数曲はさしたる感興も起きない。マーガレットの卓抜なテクニックには感心しても少々、退屈。木製の“箱”に響く残響が気になった、といえるかも知れない。でも、番外にマーガレットが、「バッハはトイピアノに良く合うんです」と言いながら演奏した小曲断片にハッと息をのむような美しさがあった。指のタッチがまるで違うのだった。彼女の姿勢まで違ってきた。曲によって演奏者の姿形が明々白々と違ってみえるという体験はこうした“異形”の演奏会ではじめて知るものなのだろう。それは悠治さんがトイピアノの限界を“利点”としたかのような音数の少ない俗謡の手触りで紡ぎ出した素朴な音の世界に通じるように思った。
 しかし、マーガレットの実験精神のたくましさは素晴らしい。彼女の来演は、彼女自身が主役となった映画『アート・オブ・ピアノ』の公開に合わせたものだ。その映画における現代音楽の極北で生きることのあっぱれさと孤独を知るマーガレットの生き様を描いて素晴らしいものだった。(3月13日・東京・渋谷アップリンク・ファクトリーの公演で)
▼映画『原発切抜帖』の内容は正直いって細部は思いだせない。しかし、一編の映画が憂慮し危惧した事態は今回の東日本大震災で現実のものとなった。いや、それ以上の悲惨な事態となったことを明記しておかねばならないだろう。
 *映画『アート・オブ・ピアノ』はアップリンクからDVD化されて発売中。

  

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

上野清士

Author:上野清士
店長の最新著書

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
カレンダー
04 | 2017/05 | 06
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -
FC2カウンター
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。