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『チェルノブイリの祈り』 〈地獄〉と〈愛〉の物語

チェルノブイリの〈地獄〉と〈愛〉の物語
 書評『チェルノブイリの祈り』 スベトラーナ・アレクシエービッチ著
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 この本はチェルノブイリ原発事故に遭遇、あるいは何らかのかたちで関わってしまった市井の人たちが強いられた〈地獄〉と、そして生きることが不可避的に〈愛〉が欠かせないことを知らしめる人間の書、と思える。
 1986年4月、チェルノブイリ原発第4号炉で爆発が起こり、原子炉と建屋が崩壊した。科学がもたらした20世紀最大の惨事となった。この事故で大気中に5000万キュリーの放射性核種が放出された。その70%が原発のあるウクライナでも、ソ連邦最大の国土を誇るロシアでもなく、北隣の小国ベラルーシに降り注いだ。
 人口1000万のベラルーシは原発事故によって485の町や村が地図から消え、そのうち70の村や町は汚染の拡散を恐れ、永久に土のなかに埋められた。本書の作者はそのベラルーシの人である。ロシア語の原本は1997年に刊行された。邦訳はその翌年に出された。そして、日本でも版を重ね、私が手にしたのは2000年に出された3版である。その時点で本書はベラルーシでは禁書のままだ。理由はあきらかにされていないものの、本書を読めば了解できる。ベラルーシ国民が自分たちの国土がいかに汚染されているか、そして見えない爆弾がいつ自分たちの肉体を侵してくるのかという恐怖から自由ではいられなくなるからだ。だが本書は原発事故の科学的分析でもなければ、ソ連の核管理を告発するものでも、反原発という活動に寄与するという目的意識的に書かれたものではない。 事故に関わってしまった人たちの日常レベルからの報告、真実の物語である。この災厄に遭遇してしまった人が、その後を不可避的に“チェルノブイリ人”として歩まざるえない葛藤、あるいは絶望に耳を傾けたものだ。
 放射能傷害で死んでいった消防士の話、その病体の描写、棺さえ鉛で封印されコンクリートで覆われた墓。死産した子どもたち、瞳孔以外、孔のないかららで生まれた女の子の話、命令で防護服も与えられず放射能除去作業を強いられた何十万ものソ連兵士たちの話。健康を損ない職場を解雇された元兵士のこと。汚染地域に生き残る犬や猫を組織的に屠る話・・・。
 ナチズムのユダヤ人に対する犯罪の象徴としてアウシュビッツ強制収容所を生き延びた精神科医ヴィクトール・フランクルが書いた『夜と霧』がもっとも優れた哲学的考察と言われるのなら、本書はチェルノブイリ原発事故を巡る人間を描いた、もっとも真摯な本だと思う。『夜と霧』が人間という存在の闇について教えてくれるものなら、本書もまた、人間というものの在りようを多面的にみせてくれる。
 原発事故からそれほどの時間をおかず、いまは無き週刊誌『朝日ジャーナル』に「石棺」というルポルタージュが連載された。それがチェルノブイリ事故を日本に広く認識させた、はじめての作品だと思う。それから多くの関連書が出版され、映画にもなった。私が読み、見たものはその一部だろう。その限りある私の狭い知見を認めつつも本書を推奨したい。少なくとも、初動の遅れが事故を深刻にしたといわれる民主党内閣、指揮権をもった大臣クラスのなかに本書をきちんと受け止めている人がいたならば、ここまで深刻な事態に陥らなかったのではないかと思う。
 
 

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