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2011年「国際民俗芸能フェスティバル」

2011年「国際民俗芸能フェスティバル」
カンボジア

 月並みな言い方かも知れないが、伝統の強さ、否しなやかな強靭さと言い換えてもよいと思うが、そんな自明ことをあらためて認識させてくれたステージだった。
 特にカンボジアから来演した王立芸術大学舞踊団による「宮廷舞踊」の優美な様式美のなかに、この国の波乱にみちた現代史のなかで生き遺った伝統の強さを思った。
 1970年代のクメール・ルージュ独裁下で、この国の知識人や芸術家たちは粛清された。それは殲滅といえるほど徹底した血の弾圧であった。伝統芸能はいっさい禁じられ埋葬された。音楽家も舞踊家も虐殺されるか、強制収容所に放り込まれ精神の自由すら封殺された。娯楽のいっさいが空白になった時代がカンボジアにはあった。しかし、アンコール・ワットなど歴史的遺構だけは大して毀損されることなく生きつづけた。
 クメール・ルージュの圧政が終わり、伝統の再興が模索されたとき、芸能はほぼ一からやり直さなければならなかった。NHKがかつて伝統舞踊にかける首都プノンペンの老いた芸能人たちを追ったドキュメンタリーを制作したことがあった。活動期にあるべき青年、壮年層がほとんど虐殺されているとき、わずかに生き残ったのは当時、現役を退いていた老芸能人たちであったのだ。
 「宮廷舞踊」は総合芸術であった。舞踊の復元だけに留まらなかった。衣装も、かつて衣装づくりに関わった古老を探して、というふうに楽器、奏法、歌唱……すべてが手探りのなかで再興されたのだ。
 2月23日のステージはカンボジア人の伝統に対するプライドを示すものだった。そこには、クメール・ルージュ時代の陰惨な記憶を一片たりともみせない完璧な優美があった。歴史の澱はまったくとどめず、民族の洗練といったものだけが象徴化されていた。舞い手の微笑みはアンコール・ワットのレリーフの女神たちの慈愛である。そこにこの国の過酷な現代史の痕跡は一毛もなかった。
モンゴル

 モンゴルの民俗音楽を専業とする集団「モンゴリアン・メロディック・ライベーション」も当夜のもう一方の華であった。
 30年ほど前に国際交流基金などによって、アジアの民俗音楽がさかんに紹介されはじめた頃、モンゴル民族の声楽を際立たせる演唱ホーミー(喉歌)が紹介された。いまでは日本でも多くの人がそれを知り、テレビや映画のBGMに使われるまで浸透しているが、それまではまったく未知の音楽だった。
 「ライベーション」のホーミーの演目では、「チンギス・ハーン賛歌」が披露された。プログラムから拾って書けば、それだけの話だが、この国がペレストロイカの波を受けて民主化される以前、ソ連邦を中心とする「東」に帰属する社会主義国であった頃、民族の英雄チンギス・ハーンは「階級の敵」として公に称えることはできなかった。いまはモンゴルの歌を紹介するとき“草原の英雄”はあたりまえのように讃えられる。そのあたりまえさに筆者などはいたく感じ入ってしまうのだ。
 文化庁が主催する同フェステバルは今回で14回目を数える。日本各地に残る伝統芸能を中心に紹介し、その関連・影響などを検証、また類縁の芸能を確認しようという意図で東アジア諸国の伝統芸能も招来して独自のプログラムを組んできた。筆者はすでに9年間、見つづけている。そして、期待を裏切られたことは一度としてない。
 今回、日本からの出演は、神奈川県湯河原町の「吉浜の鹿島踊」、東京浅草寺の神事「びんざさら」、そして現在も西日本でプロ集団として門付けを行っている「伊勢太神楽」が紹介された。特に、「伊勢太神楽」は貴重な芸能である。、古典としての民俗芸能がプロとして集団の生業として生きている例は、沖縄を除けば、岩手・青森の内陸から三陸沿岸を活動基盤とする民俗芸能の集団が知られているが、本州では非常に少ない。その稀有な例として「伊勢太神楽」の舞いと演奏があった。なるほど鳴り物の音(ね)ひとつひとつの響きがちがうと思った。地域氏子たちが農閑期ににわか芸能を疲労する際の音色とは厚みがまったくちがっているのだ。そんなこともよく了解できたステージだった。
 (2月23日、東京三宅坂・国立劇場)

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