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映画『サンザシの樹の下で』チャン・イーモウ監督

映画『サンザシの樹の下で』
 チャン・イーモウ監督
サンザシの樹の下で

 気宇壮大な歴史劇も撮れば、リリカルな小品も繊細に演出して魅せてしまうチャン・イーモウ。その職人技にはいつも脱帽させられる。
 北京オリンピックの開会・閉会式のスぺクタルも彼の仕事なら、オペラの演出も手がける。確か創作バレエの演出に挑んだこともあった。スペイン語に堪能になる前、セキ・サノ(佐野碩)もメキシコでオペラやバレエの演出を手がけていた。ロシアのメイエルホリドに学んだ佐野にとってはオペラもバレエの演出も創造的実験性を試みるよい機会となっただろう。とおなじようにイーモウも他流試合に臨んだ後は、その体験を滋養として磁場の映画に回帰する。他流での仕事は、まるで気分直しのリフレッシュ期間のようだ。そして、またメガフォンを取れば、大衆性を失わず安易に流れず妥協せず、優れたドラマを造形し、あらたな感動を生みだす。そこにこの人の映画に対する深い愛着を感じる。
 最新作となる『サンザシの樹の下で』は監督の系譜でいえば、いまをときめくチャン・ツッイーのデビュー主演作となった『初恋のきた道』につらなる小品だ。
 『初恋~』ではチャン・ツィイーがあどけない僻村の少女を演じた。本作は、文革時代に政治に翻弄され、貧困を強いられた薄幸の少女が悲恋に泣く話。この少女役にチョウ・ドンユィという18歳の新人が起用された。そして、監督の期待によくこたえ、デビュー作とは思えない説得力のある演技で、おおいに観客の涙腺をゆるませる。硬質なガラスのような透明感と、世間の逆風に抗して生きていこうという意志も秘めたけなげな少女像を演じきっている。昭和20年代の日本映画には、こういう少女像がよく描かれていた。少女時代の二木てるみさんを思い出した。
 『サンザシ~』の時代背景はいわゆる「四人組」が毛沢東の虎の威を借りて中国を非情な独裁下においた文革期。大半の国民が大なり小なり不条理な辛酸をなめた。そして、国民の多くがその時代の記憶をいまだ風化させてない。だからスクリーンにその時代を蘇生させれば中国人なら誰でも感情移入は容易だ。
 文革期、性愛はおろか恋愛もご法度といった風潮のなかで、若者の恋愛もぎこちなくプラトニック化したし、一部の党官僚をのぞけばみな貧しかった。そんないくつもの制約のなかで育まれる少年と少女の愛が“純愛”になるのは、ある意味、当然かも知れない。『初恋~』もまた僻村と貧困という制約が創りだした愛のメルヘンだった。本作もそうだ。実話をもとにした映画だが、もちろん映像化にあたって幾つも挿話が加えられているはずだ。
 人は勝手なもので、愛欲モノに刺激を求めれば、純愛モノに涙したい。それが大衆というもの切りない嗜好だろう。巧みな職人である監督はそうした大衆の我欲を知りつくす。一歩、間違えばあざとい手法だが、そこに墜ちないところがたいへんな才人なのだ。
 『初恋~』と同様、ストーリーは単純、いやこうした映画の場合は“純化”というのかも知れない。出会い、発展、昇華、そして死。悲劇に向かって流れる運命の川を堰き止めることはできない。物語の展開は誰でも読めてしまう。それでも涙腺が緩むのを留めることはできない。心を洗われるような映画であるはずだ……しかし、日本人は一点、引っかかってしまう。
 表題にもなった「サンザシの樹」とは、かつて日本軍が抗日分子を多数、殺戮し、流れた血によって、花の紅は濃くなった、と近在の農民が言い伝えている伝説の木なのだ。日本帝国主義の犯罪を象徴するものだが、「主義」を理解しても、日本人には耳触りのよい話ではない。
 文革時代、都市の学生たちは強制的に僻地に「下放」された。サンザシのある村はそういう僻地だ。都市のゆたかな家では子息たちの下放など忌み嫌っていたはずだが、お上の命令には逆らえない。僻村のまずしい農民の生き方に学べ、と共同幻想が金科玉条のように踊っていた時代だから。そして、炊煙の影すらみえない丘にたたずむサンザシの木をみながら、日本軍はこんな土地まで侵し進んだか、と今更ながらに暗澹する。原作が実話だというのだから、日本人は「そうですか」と受け入れるしかない。
 映画の純愛に感興しても私の涙腺はゆるむほどナイーブではなかった。サンザシの紅い花の謂われが冒頭で示されとき、素直にスクリーンに没入できない。それでも珠玉の一篇であることはまちがいないだが……。 

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Re: No title

よく覚えていますよ。
どうしているかずっと気になっていました。ここでは私的なことは書きにくいでしょうから、メールアドレスへ一度、ご連絡ください。

No title

とても魅力的な記事でした。
また遊びに来ます!!
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