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映画評 『コロンブス 永遠の海』 マノエル・オリヴェイラ監督

 ポルトガルの映画。ポルトガル生一本といって良いフィルムだ。ゆえに独善もあり唯我独尊の気配もあり、ということになる。
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 監督は今年102歳(!)を迎える現役最高齢の映画作家。常識的に〈最晩年〉の作品として監督のフィルモグラフィーの末尾にくるものだが、いまも制作に撮りかかっている映画があるというのだから驚嘆するしかない。創作意欲旺盛な仙人のような監督がポルトガル各地、大西洋を渡って米国でも撮影したのが本作だ。健脚でもある。
 おそらくタイトルを目にして、「今頃なんだ」といぶかしく思う人は多いだろう。斯くいう筆者もそのひとりだ。中南米諸国なら生理的な反感すら抱かれるかも知れない。さらにいえば中南米各地の先住民人権組織、それにつらなるアクティヴな活動家たちはコロンブス像の撤去、あるいは破壊も辞さないわけだが、そんな人たちがみたらこの映画はおそらく指弾される。それは間違いない。ポルトガル人監督がポルトガル人のために制作した映画だといったところで有効な説得力をもつものではない。まず、そんことを前置きとして語ることになる。
 映画の筋はいたって単純である。優れた詩はいつも単純なかたちを採りながら、行間の濠は深いものだ。この映画もそうだ。コロンブスの歴史的評価ということで皮相的に語ろうとすれば、それは本作に何もみないことに等しい。しかし、本作に反撥する人たちの苛立ちも分かる。その最大の理由は、コロンブスが成しえた結果を黙過していることだろう。彼の“偉業”は商業的な利権・権益の独占を企図したところから出発している。
 映画は一組の夫婦を語り部として綴られる。その背景にいつも海がある。
 夫マヌエルは医師として生計を立てるかたわら、市井の歴史家としてコロンブスの生誕の地の謎を追っている。新婚旅行の地が、マヌエルがコロンブスの生地として考えるポルトガルのアレンテージョ州のクーバという町だった。CUBA……カリブの島国と同じ綴りだ。コロンブスがカリブの島をクーバと名付けたのは、自分の生地に敬意を表したからではないかとも考えている。
 コロンブスのスペイン語読みはコロンだが、ポルトガル語もおなじコロン。一代の冒険的航海者の出生地は定説としてイタリアのジェノヴァということになっている。それに疑義を唱えるような有力な新説は出ていない。映画は、コロンブスのルーツ探しに出る仲むつまじい夫婦の旅を時代を超えて追った愛の物語でもある。
 映画『コロンブス』は75分の劇映画だが、夫婦の新婚旅行と47年後の老境の旅をともに描き出しながら、旅のライトモチーフがいつもコロンブスの出生の謎に関わるものとなる。
 ユーラシア大陸の西の端に位置するポルトガルは海を眺望しながら思索する。大航海時代に詩人は大海に乗り出し、最良の作品を詠う。しかし、母国での栄光に浴することなく異郷に果てる。徳島に没したモラエスしかり、叙事詩『ウス・ルジアダス』の詩人カモンエスの墓もマカオにある。ポルトガル文学の最良はみな異郷で構想され書き上げられた。その文学性をサウダーデという言葉で説明されることが多い。「郷愁」と訳されるが、訳語には強い感傷性がただよい少々、違和感を覚える。強いて言えば、もっと能動的に感傷を迎え撃つようなニュアンスだと思う。そこに剛毅な意識操作が必要とされた詩人たちの仕事があった。故国を胸掻き毟るほど恋しいと思いながら立ち返ることのできない何か……それがサウダーデの本質かも知れない。
 詩人たちの仕事も大航海時代を拓いたコロンブスの”偉業”があったというのが、映画『コロンブス』の監督の立ち位置だろう。
 映画はひとくみの夫婦を通して故国の歴史そのものを思索した叙事詩だが、そこにコロンブスの生地探索という縦軸がある。その生地を巡る旅をつづけることで〈愛〉が支えられてきた。その〈愛〉とはコロンブスを超越して海への憧れへと誘われる。そこにポルトガル人の民族性というものが象徴されているのだろう。  

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