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書評 『ラテンアメリカ十大小説』 木村榮一著

書評 『ラテンアメリカ十大小説』 木村榮一著
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 豊潤にして美味、物語の醍醐味を堪能させてくれる現代ラテンアメリカの小説の森、いや密林。これまで、この地域の現代文学に関して適切かつ簡潔に方向指示を出してくれる入門書のたぐいはなかった。わずかに植民地時代から現代の汀まで鳥瞰して解説してくれた文庫クセジュの一冊しかなかったと思う。クセジュだから当然、フランス人の嗜好を濾過しての提出であって、必ずしも日本の読者の嗜好とはすこし違う味つけ味わいで調理されていた。そこへ木村さんの本が出てきた。このメニューはいい。いうならば日本人好みの案内書が出てきた感じだ。こういう入門書を渇望していた読者は多いと思う。僕自身、なにか、やっと満たされた、という感じだ。
 著者は、これまでガルシア=マルケス、バルガス=リョサ、ボルヘス等々、現代ラテンアメリカ文学の代表作を幾多も翻訳してきた、いわば実践者の手になる指南書だから信用できる。水先案内人は熟練者にかぎる。木村氏は幾多の翻訳を通じて、その世界に深く分け入って、絡み合う蔦を払い、虫の攻撃を撃退しつつ、芳醇なる言葉を拾い選んできたラテン文学界の苦労人だが、まぁ苦労とはあまり思っていないだろう。先駆けて読んだという優越者だし。
 木村氏ならではと思わせる引用箇所が魅力的で、小説を知り尽くした人の説得力をもつ。そして、とりあげた十代小説の解説に行き着く前、限られたスペースのなかで、その作品にいたるそれぞれの作家たちの履歴や、同時代の母国の歴史なども語って周到に読者のイメージをふくらませ、と発酵させつつ、さてこういう魅力に富んだ作品だ、と提示する手法である。そして、その粗筋の紹介もまた一つの掌編小説を読んでいるような、それ自体が掌篇であるかのような面白さを味わうことができる。
 十代小説とは、ボルヘス『エル・アレフ』、カルペンティエル『失われた足跡』、アストゥリアス『大統領閣下』、コルタサル『石蹴り』、ガルシア=マルケス『百年の孤独』、フェンテス『我らの大地』、バルガス=リョサ『緑の家』、ドノソ『夜のみだらな鳥』、プイグ『蜘蛛女のキス』、イサベル・アジェンデ『精霊たちの家』である。十代作家十代小説という選択である。
 熱心なラテンアメリカ文学愛好家ならすでに自分の嗜好を頑固な頑迷にねちっこく抱え込んでいるいるだろうから、木村腑分けに異論もあろうかと思うが、入門書であってみれば、その選択はじゅうぶん納得のいくものである。僕だって異論はあるけど、しかし、概ね了解という選択にはちがいない。
 現代ラテンアメリカ文学の特徴をひとつの網にかけるようにして括る比喩に「魔術的リアリズム」というのがある。著者もまた、それを肯定しているわけだが、それぞれの作家たちの「魔術的リアリズム」の表出の方法、表現はそれぞれ抜きがたい個性があるわけで作家と作品を語るなかで、その特徴を鮮やかに提示していく。
 木村氏自身が、「魔術的リアリズム」の魅力に遊弋して仕事をしてきた人だから、その入門書の文体も、いわゆる教科書的な無味乾燥としたものではなく、芳香が行間にただよって読ませる。これがいい。先にあげたクセジュはその点、すこぶる教科書的な文体であった。本書で、またラテンアメリカ文学愛好家がふえたら愉快、完爾!
▽岩波新書(2011年2月刊)

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