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書評『ピーター・ラビットの自然はもう戻らない』 セラフィールド各使用済み燃料再処理工場

書評『ピーター・ラビットの自然はもう戻らない』 マリリン・ロビンソン著
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 サブタイトルを「イギリス国家と再処理工場」という。
 「再処理工場」とは核廃棄物(使用済み核燃料)を再処理してプルトニウムを取り出している英国政府100%出資の英国核燃料公社のセラフィールドのことだ。
 アイリュシュ海に面したカンブリア地方にあって、この地は「ピーター・ラビット」の舞台となった湖水地方として良く知られているところで、毎年、多くの観光客を惹き寄せている。
 美しい自然を背景に描かれた「ピーター・ラビット」の物語だが、作者のベアトリス・ポッターはその世界的なベストセラーになった作品の印税で、物語の自然を保護しようと私財をなげうって周辺の家や土地を買った。
 その後、しばらくして英国政府はここに核処理工場を建設、爾来(じらい)とめどもなく放射能汚染をつづけいる。危険な地域だから、そこは僻地、過疎地として残り、みためだけ「美しい自然」が「保全」され、英国人だけでなく日本人も含めて諸外国のファンが訪問する、ということになってしまった。
 日本では湖水地方の美しさを謳った写真集や画集、観光案内書が幾種類も出ている。そうした本の制作者はどこまでカンブリア地方の実態を知ってそうした本を出しているのだろうか? 
 実はその「美しい自然」は英国で一番、放射能汚染の深刻なとんでもない場所である。EU諸国のなかでもっとも放射能に犯された「美しい自然」なのである。この汚染のひどさは見た目に分からない。それを数字、ガンの発生率などで可視化したのが本書なのだ。
 たぶん労作といえる内容だが、一般にはなかなか受け入れにくい構成で、作者はこうしたセラフィールドが野放しになっている歴史的背景を解くために全体の2分の1以上を、英国の社会保障制度について言及し、特に英国独特の「救貧法」の実態について詳細に語る。その原作者の方法論には少々、異論があるが原作者は必携と考えたらしく、その記述は執拗だ。
 その原作者の主旨を、結論から先にいえば、貧窮するひとびとを永遠に低賃金労働に固定化するための政策的な階級温存の制度であって、人権のかけらもないことを主張する。そして、その貧窮する労働者たちの無知などを利用して放射能汚染だらけのセラフィールドの操業が成り立っていることを告発する。
 西欧諸国の他政府機関はみなセラフィールドの実態を知っている。知っているが英国を批判できない。西欧諸国がセラフィールドに出資をしているという事実もあるが、なにより自分たちの核廃棄物を受け入れくれプルトニウムを抽出してくれている機関だからだ。自分たちではなかなか踏み込めない“汚い仕事”を請け負ってくれている英国に感謝はすれど批判はできない。天に唾する行為だからだ。日本もその恩恵を預かっている。
 「救貧法」に関する記述を削ぎ落とし、セラフィードの現状を知らしめる告発型の構成をとれば本書はもっと多くの読者を獲得し、そして「ピーター・ラビットの自然」を訪ねようというバカなことは見直されるだろうと思う。
 1992年に初刷りだけで絶版になったと思われ、価格当時の価格で2500円だから、おそらく少部数出版だ。千部も市場に出ていないのだろう。当時、手にした読者はわずかだろうし、さらに作者の意図通り、きちんと読解した人はそのまた半分という感じだろう。 もし本書が出版社が意図した通り、読者に迎えられていれば本書の後も引きも切らず無責任きわまりないピーター・ラビットの自然「観光案内書」も出版されるはずはない。
 この私(上野)の拙い文章を読んで、「セラフィールド」という固有名詞が気にとまったら、どうかご自身で調べて欲しいと思う。正直にいえば筆者自身、今回の福島第一原発事故を受け、積んだままになっていた本書を手にした次第だ。
 かつて学校でならった「社会主義者」ロバート・オーエンが労働者に配慮した経営する工場の改善の実践などが出てくる第一部などは、核問題から離れて興味深く読める。たとえば、オーウェンの実践は、すこし経費が負担になっても改善したほうが作業効率が上がり利潤を上げる、という資本家の視点でしかなかったという指摘など傍線を入れたいところが多々あるのだが、ピーター・ラビットの読者には少し辛い記述の連続だと思う。
 だから、その第1部をバサッと割愛して、第2部の「セラフィールド・地球規模の核攻撃」から読んでも十分、理解できる内容だ。むしろ、この時期、それのほうが良いかも知れない。
 今更、英国近代経済・社会史など勉強しようと思わない読者は2部から入って十分。ともかく貴重な本、労作といっても良い内容なので、ここに掲げた。
 ……しかし、英国の情報隠蔽政策はかつてのクレムリン以上。わが民主党政権はなんと素朴なんだろうと思えるぐらいだ。英国は女王陛下ご一家揃って、大英帝国ご繁栄のため一族郎党セラフィールドを擁護、隠蔽しているようだ。
 エリザベス女王陛下の夫君エジンバラ公は世界自然保護基金(WWF)の総裁を務めている。その足下で英国でもっとも美しいといわれるカンブリア地方が放射能汚染の濃度をためていることに手を貸している。もともと英国皇室は陰惨な闇の権謀から出てきたからすこぶる政治的な存在である。もうけのために環境汚染もいとわない政策もエレガントに英国紳士らしく手を汚さずに実行する。全面閉鎖された炭坑労働者や幾多の失業者、そうした低賃金労働者の無知につけ込んで使用済み核燃料は再処理されているのだ。
▼新宿書房刊・鮎川ゆりか・訳。

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No title

ピーターラビットの故郷、イングランドの湖水地方は私もいつか行きたいと思っていましたが、、怖い話ですね。
この本が気になったので早速購入しました。Amazonで買えました。

原子力に変わるものとして、フランスのプロヴァンスでは核融合発電の研究がされていますね。
燃料が水だけならエネルギーが枯渇しないし、エネルギー闘争がなくなる、つまり戦争がなくなりますよね。
一刻も早くクリーンエネルギーの開発がされますように。

それからついでに「ラス・カサスへの道」随分前に購入していましたが紛失していて、今日発見されたので近いうち読んでおきます。

水、もまた

水問題も深刻ですよね。
大気中に放出された放射能は結局、水を汚染させる。現に福島原発では大量の汚染水が海に流された。セラフィールドでも日々、起きていることだし、日本の原発はみな海に接しているわけで海を汚し続けている。海を汚せば、やがて海からしっぺ返しされる。福島原発の後、ペットボトルが品切れとなりました。その水市場の状況について描いた映画「ブルー・ゴールド」について、触れています。ご笑読を。

悪夢のようですね。

随分時間が経ってしまいましたが、、拝読しました。
福島原発の事故が起こるまで、使用済み燃料の処理についてなど考えたこともありませんでした。
本書を読みながらピーター・ラビットやビアトリクス・ポター、湖水地方に関する書籍を数冊平行して読んでいましたが、セラフィールドや環境汚染に関する記載はありませんでした。「ピーター・ラビットのおはなし」シリーズを読んでいると、あの湖水地方の美しい風景が取り返しのつかないほど汚染されていることに嘆き悲しんでしまいます。
六ヶ所村の再処理工場が本稼動されるとセラフィールドのようになってしまうのではないかとただただ心配です。
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