スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

「上を向いて歩こう」

「上を向いて歩こう」

 一昨日、築地の松竹本社の試写室で永六輔さんの真後ろで新作映画を観た。永さんが試写室に来るのは珍しい。思わず声を掛けたくなったが、そこはマスコミ関係者ばかりだからなんとはなしに抑制してしまう。永さんがその日、来ると知っていれば、それなりに話すべきことを整理・要約しあわただしいの時間のなかでもきちんと伝えられるように簡略化できるけど、いきなりだとアノ・ソノ、エーとが多くなって締まりがない。そうすると大切な話も間の抜けたものになるような気がした。ここは沈黙は金だと思った。

 震災以来、「上を向いて歩こう」がいまの困難な状況にもっとも似つかわしい歌として取り上げられる機会が多くなった。私自身、この名曲にはいろいろな思い出がある。私ばかりでなく多くの日本人が大なり小なり、それぞれの思い出あると思う。そんな歌を書いてくれた永さんには日本人として感謝したいと思った。でも、ご本人の前ではなかなか言い出しにくいものだ。その感謝の意味もこめて、私のささやかな「上を向いて歩こう」を書いておこうと思う。
 先日、女子サッカーW杯の決勝戦をテレビ観戦しているとき、たぶん多くの日本人が思ったことだと思うが、前半はまったく米国のパワーサッカーに押され通しで正直、いつ得点されてもしかたがないと思っていた。その時、もし破れるようなことがあれば米国国歌を聴きながら、彼女たちに贈る歌は「上を向いて歩こう」しかないなと思っていたぐらいだ。
 1990年代前半の中央アメリカ諸国は内戦、内戦後の荒廃、貧困、先住民に対する人権抑圧……そんな日々が倦むことなくつづいていた。私の中米暮らしはそんななかで営まれていた。「節電」どころではなく内戦下にあっては発電施設が破壊されたりすることもあったから1週間、電気のない生活、水道を使えないなかでの育児と大変な体験をしてきたと思う。そんな騒然たる中米にあって1992年、ノーベル平和賞がグァテラマのマヤ系キチェ族の娘で人権活動家リゴベリト・メンチュウさんが受賞するというニュースは闇のなかの一閃の光のようなものだった。
 彼女を追いニカラグアの首都マナグアまで行ったことがあった。マナグアの大学で南北アメリカ大陸の先住民諸団体の指導者が参加し、国連の「先住民年」にどのような行動を執るべきか、といったことを主要議題とする会議があった。そこに会議のアトラクションとしてニカラグアのフォーク・グループが参加していた。この国にはパロ・デ・マヨという民俗音楽があるが、そんな素朴な歌を中心にラテンアメリカの大衆歌をレパートリーとするファミリー・グループだった。そのグループのボーカル担当の少女が私を日本人と知ると、「わたしの歌で日本人に通じるかどうか聴いてくれ」と言ってファミリーに伴奏をつけて「上を向いて歩こう」を日本語で歌い出したのだ。
 それは中米にやってきてはじめて聴く「上を向いて歩こう」だった。内戦-革命-また内戦と絶え間ない戦いの歳月を送ったニカラグアの首都は荒廃したままだった。
 ラテンアメリカでももっとも敬虔なクリスチャンの多いといわれる同国だが、その首都大聖堂は数十年前の大地震で崩壊し瓦礫のままであった。数年後、現代的な聖堂が建つのだが、92年当時は建設途上だった。うちつづく人災と天災のなかで民衆は苦吟していた。「上を歩く」前に、下を向いて歩いて残飯を探さなければいけない人も多かったはずだ。しかし、若者たちは、「上を向いて歩き」出していた。
 長い内戦は政治上の理由ではなく、経済的な疲弊故に終焉を迎えていた。なにもない状況だったが、銃弾が絶え、やっと「平和」が迎えていた。しかし、民衆の生活は日々、闘いであったはずだった。小銭を鋳造するための金属もなく、すべて紙幣という状況だった。しかし、やっと「上を向いて歩こう」と歌える時代になっていた。
 首都は空き地ばかりが目立った。それはすべて直下型地震によって崩壊した市街地の跡だった。そこに静かに「上を向いて歩こう」のメロディーが流れ出した。そのことを、やっぱり永さんにいうべきだったか。遅ればせながら、ここで……。

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

上野清士

Author:上野清士
店長の最新著書

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
カレンダー
04 | 2017/05 | 06
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -
FC2カウンター
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。