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『黄色い星の子供たち』 ローズ・ボッシュ監督

『黄色い星の子供たち』 ローズ・ボッシュ監督

黄色い星の子供たち


 フランスが〈人権〉を唱えるとき、その内なる脈動のなかにヴェル・ディヴ事件への悔恨があるはずだ。20世紀フランスの最大の歴史的な負い目、〈傷〉となっているナチ・ドイツへの加担の象徴として、その事件がある。本作は、その事件をはじめて真正面から見据えたドラマである。
 1942年7月16~17日にかけてパリに住むユダヤ人12884人が一斉検挙され強制収容所へ死出の旅に追いやられた。拘束されたユダヤ人はいったん市内のヴェル・ティヴ冬季屋内競輪場に収容されたため、その名がある。
映画は、ヒトラーがパリを制圧した権力者の威光をかさにエッフェル塔、凱旋門など“戦利品”を愛で遊覧するシーンからはじまる。セピア色に焼き直されたニュース・フィルムには戦火の止んだ平穏な気配すらある。ヒトラーの顔も晴れやかである。
フランスは4年間、対独戦の敗戦によってナチ占領下にあった。そのあいだ76000人のユダヤ人が追放された。その多くが強制収容所で息絶えた。ヴァル・ディヴ事件はその先駆けであった。そして、その追放にフランス政府が積極的に加担した。非人道的で不当であることを知りつつナチに協力し、償えない民族的〈傷〉となった。
フランスはこれまで、ナチに協力したことは、ドイツの傀儡(かいらい)であったヴィシー臨時政府に罪を負わせ、フランスを当時、代表していたのドゴールの亡命政権であって、ユダヤ人弾圧には手を染めていないという立場をとってきた。そして、亡命できなかったドゴール派や左翼勢力、そして多くの反ナチ派のフランス人たちは多大の犠牲を払いながらナチ占領軍に対して果敢にレジスタンスを展開してきた、と「愛国史」で語ってきた。
しかし、占領下の民衆の立場は弱い。生きるためナチに協力する者もでてくる。そのなかでも最大の犯罪がヴェル・ティヴ事件だった。本作はそんな母国の恥部を果敢に抉り出したわけだが、暴露という反知性的な志向ではなく、あくまで人間の真実のドラマとして語る。
物語は強制収容所の医療施設に派遣されたフランス人看護婦アネット(メラニー・ロラン)と、強制収容されたフランス国籍のユダヤ人医師シェインバウム(ジャン・レイ)を語り手に進行するが、基本的に群集劇だ。実に多くの出演者が台詞をもって登場する。史実に忠実であろうとすれば、一斉検挙で多かった女性と子どもの立場を尊重しないわけにはいかない。成人男性は真っ先に検挙されるだろう、と予測され地下に潜るか、避難していたため相対的に検挙者は少なかった。だから、4000人という子ども数が目立つ。それだけ事件は悲劇性をおびる。
大量の子役が登場し、応分のセリフが割り当てられる。これを子役たちは見事にこなしている。群像劇をあざやかに統制しながら、ひとつひとつの家族の挿話も丹念に織り上げてゆくボュシュ監督の演出も見事。群衆を制御する力技もみせれば、繊細に家族愛のディテールも繊細な筆づかいで塗り重ねていく。
数年前、フランス映画界ははじめてアルジェリア独立戦争の実態を、加害者の立場であることを明確して佳作一本を撮った。アルジェリアの植民地支配の犯罪性を映像化するまでフランスは約40年の歳月がかかった(アルジェリア独立は1962年)。ヴェル・ディヴ事件から本作が制作されるまで約70年も掛った。それだけフランス人は加害者としての〈傷〉を疼かせ、傷口をふさぐことができなかったのだ。
当時のフランス人は敗戦国の隷属民。昨日まで親しく行き来していたユダヤ人家族を見殺しにするほど彼ら自身も追い詰められていた。良心の呵責にさいなまれながら、ユダヤ人の悲惨を見て見ぬふりをした。一斉の検挙のあることを知り、事前にユダヤ人に知らせた警察官もいれば、急きょ避難を示唆するビラを作成して告知した勇敢な人もいた。ユダヤ人を匿ったパリ市民もおおぜいいた。しかし、事実として多くのユダヤ人がナチの手先となったフランス警察によって検挙され、虐殺された。
 ここ数年、フランスを象徴するココ・シャネルの評伝映画が3本も制作され日本でも公開された。その3作ともみごとに描くことを避けているのがナチ占領時代のシャネルの来し方であった。対ナチ協力者、むろん積極的なものではなかったが、ナチ親衛隊将校を愛人にしていたために占領下にあっても活動できたことは史実であって、そのため戦後、スイスへ事実上、亡命生活を余儀なくされている。
 日本で活動するフランス人のひとりにフランソワーズ・モレシャンさんがいるが、彼女の両親は対ナチ・レジスタンス活動家として命を賭けていた。そのため幼いモレシャンさんも緊張した日々を強いられている。モレシャンさんは意外と知られていないがバレエの優れた鑑賞者であり、評論家である。その著書はバレエ愛好家の手にしか渡っていないだろうが、20世紀の現代史のなかにバレエ全般を組み込んで語れる日本で唯一の存在ではないかとさえ思う。そのバレエ論のなかにも彼女のナチ占領下の暗鬱が入り込んでいる。

映画は、敗戦という事実のなかで困惑し、プライドを傷つけられ無力感も味わっているパリ市民も描き出されるし、もともとユダヤ人を嫌悪していた市民にとっては「これでやっかい払いできる」と喜ぶ市民がいたこともきちんろ描かれている。大都市の諸相はとめどないグラデーションを描きだす。
ナチが登場する映画、第二次大戦における欧州戦線を描いたフィルムで繰り返しユダヤ人の着衣に縫い込まれた「黄色い星」が登場する。その星印が当のユダヤ人に与える心理的な影響、微妙なニュアンスも繊細に描き込む。そうした細やかさが積み重なって豊かな人間ドラマになっていた。  

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