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映画『ヒマラヤ 運命の山』 ヨゼフ・フォルスマイヤー監督

映画『ヒマラヤ 運命の山』 ヨゼフ・フォルスマイヤー監督
ヒマラヤ

 昔、「山岳映画」と称するカテゴリーがあった。
 その草分けはドイツ及びオーストリア映画界で、彼の国の十八番といえるものだった。ドイツ語圏映画の象徴でもあった、古い話だが。
オリンピック映画の最高峰、というよりスポーツ映画の典型を造形したのがナチ・ドイツ称賛の五輪といわれたベルリン大会の記録映画『オリンピア』(1938)。無論、監督はレ二・リーフェンシュタール。彼女が映画監督となる以前、女優であった。それ以前は現代舞踊家として履歴を重ねていた。女優として主演した作品の代表作はすべて山岳映画だった。『聖山』、『死の銀嶺』、『モンブランの嵐』といった作品に出演し、やがて自らメガフォンを取るようになった。
 周知のようにレニがナチ党大会記録映画『意志の勝利』、そして『オリンピア』を撮ったことによって戦後、映画界を追われ、文化活動そのものまで封殺される“政治犯”扱いされる。彼女ばかりでなく当時のドイツ映画界はナチと深く関わっていたために映画そのものが疲弊してしまう。さしもの山岳映画の伝統も途切れた。それでもオーストリアは冬季オリンピックの英雄トニー・ザイラーを主演とする一連のスキー=山岳映画を撮って世界的なヒット作を制作していたが、ザイラーの衰えとともに停滞した。
『ヒマラヤ』の試写に接し、ドイツ映画界に伝統が再興した、と早合点するほど甘くないが、伝統の力は温存されている、と思った。しかも最新の技術によって高峰への登攀という臨場感が圧倒的な迫力を作りだしていた。むろん現地ロケである。テレビのスケールでは捉えきれない巨(おお)きなスクリーンによってはじめて実現する迫真性というものがあった。
 実話の映画化でもある。
 1970年6月、標高8125メートルをもつヒマラヤ山脈ナンガ・バルバット、世界最大の標高差4800メートルを誇るルバート壁の初登攀を果たしたラインホルト、ギュンター・メスナー兄弟の逸話だ。登頂は兄弟にとって少年時代からの夢であった。しかし、夢は達成されたが軽装備であったため下山行で遭難、弟ギュンター(アンドレアス・トビアス)は死亡する。この遭難によって下山への日数に手間取り、おなじ登山隊から遅れて登攀に成功した同僚たちに初登頂の名誉を奪われてしまう。そのため九死に一生を得た兄ラインホルトは手記を発表し、弟の名誉を称えつづける。自身も後年、独りでナンガ・バルバットの登攀に成功している。
 映画はその登攀の顛末を雄大な自然美のなかで展開するのだが、俯瞰もすれば仰角でも撮る。遠く眺望しているだけでは絵葉書の一葉としておだやかに感嘆していれられるが、そこを人智を極めて征服しようとすれば、自然は牙をむき出して人間の驕りを攻め立てる。その自然に果敢に挑む小さな人間、その無償の闘争そのものが山岳映画の見どころといえるだろう。原題は「ナンガ・バルバット」。主人公はあくまで山、高峰に象徴される自然ということだろう。
しかし、こうした映画を臨場感をもって撮るという行為は俳優もスタッフも登山の心得があり、過酷な天候、極寒に耐える覚悟をしなければ制作はできないだろう。また機材も過酷な自然に抗して耐えうるかという問題もある。そういう映画以前のこともいろいろ思ってしまう。
人間を峻拒(しゅんきょ)する自然のなかで人間のドラマをつくろうとする。その行為そのものもまた過酷な登攀への挑戦のようにも思えてくる。そのドラマを追うが本筋の映画だが、大きなスクリーンに身を委ねて自然を眺望しているだけで、ある種のカタルシスを覚える作品でもある。あえていえばプラネタリウムの星空に没我しているような心地良さだろうか……。
この映画の音楽スコアをアルゼンチン出身のグスターボ・サンタオラヤが書いている。自然への畏敬、神々しいまでの美、その讃歌というのだろうか、たとえば先ごろ公開されたばかりのスペイン=メキシコ合作映画『ビューティフル』(アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督)ではバルセロナという国際都市に対する批評を試みていると思ったが、ここでは雄大な自然を畏敬するような敬虔な旋律も惜しまないスコアを提供している。サンタオラヤの映画音楽は近年、ますます冴えていると思う。     

 

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