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映画『明かりを灯す人』 アクタン・アリム・クバト監督

映画『明かりを灯す人』 アクタン・アリム・クバト監督
映画 明かりを灯す人

 こういう映画を珠玉の一編というのだろう。
 中央アジアの小国キルギスの劇映画である。この国の文化を、社会状況を含めて世界に向けて発信できる才能は本作の監督アクタン・アリム・クバトしかいないだろう。本作も含め同監督の長編3作はすべて日本で公開されることになった。筆者自身はキルギスの隣国ウズベキスタンを知っているが、それでもクバトの才能がなければキルギスは意識の外にあっただろう。
 1998年の『あの娘と自転車に乗って』、2001年の『旅立ちの汽笛』、そして昨年、制作された本作。総人口560万、資源も乏しくソ連邦から独立して以来、経済的な困窮に民族対立も加わり映画が産業として成立する基盤はない。本作もフランスやドイツなど欧州諸国の出資で制作費が捻出されている。表現欲求への渇望は貧しさをいつでも超えようと真摯な努力をする才能はいつの時代にも登場するものだ。
 前2作が監督の青春が投影された淡彩の自伝的作品であるのに反し、本作は名もなく貧しい電気工で“明り屋さん”と村人から慕われている中年のおじさん(監督自身が主演)の生きざまを通し、地に這った庶民の視点から民族のプライドというものが控え目に、しかし確信をもって語られる。本作の第一等の対話の相手は同胞キルギス人たちに違いないが、途上国の民衆がたいてい共感できるような普遍性をもっている。
 クバトは同胞にひざ詰めで、貧しくとも守られなければならない民族の矜持というものはあるはずだ、それを忘れて少しばかり暮らし向きがよくなっても、それで失うものは大きいだろう。そんな経済発展なんてハートも骨もない軟弱なもので、また金の力で脆く壊れるものだ、と語っている映画なのだ。
 現在の映画の尺度からすれば短い80分というフレームのなかで、きっちり言いたいことを言い切っている。かつて日本映画が活性をみせていた時代、だいたい90分前後の尺度でたいていのことは語りつくされていた。90分はスクリーンのサイズのように黄金律であると思う。
 旧ソ連圏の新作を集めて年に一度、ロシアで開催されている「キノショック映画祭」で主演男優賞を獲得し、俳優としての実力も認められたクバトだが、その質朴で人のよい電気工のたたずまいが実に良い。経済苦境は電力不足を招いている。モノ不足は該当するモノの価格を高くする。貧しい庶民には電気代も高価だ。この電気工のおっさんは、不正を承知で貧しい家の電気代を軽減するためメーターに細工する、無償で。そして違法だ。でも彼には遠大な夢がある。村の峡谷を吹き抜けてくる風を利用し、風力で電気を起こせないかと、ひそかに計画もしている。自前で簡便な風力発電機もつくった。
 そんな僻村にも経済のグローバリゼーションと無縁ではいられない。ソ連解体後、市場経済を選択したのだから。かつてエコノミック・アニマルといえば日本の代名詞であった時代があった。いまや中国人がそれを継承しているところがある。この寒村を地盤とする政治家が中国の企業家をつれて乗り込んでくる。地元を豊かにして、自分の支持基盤も盤石なものにしたいという意気込みだ。
 その中国人の描き方は成り上がり者の下品さで象徴している。監督の中国人を観る目は冷ややかだ。かつて日本人も東南アジア諸国の映画のなかで、そんなふうに繰り返し描かれた典型像がそこにある。
 中国人の出資を目論んで、地元の政治家は若い女性に接待させる。裸で。明り屋さんは、その席に同席することを強いられる。けれど、明り屋さんはいても立ってもいられなくなり激怒、宴席を台無しにして退席する。民族的義憤というものだ。しかし、そのツケは大きかった。政治家一派から仕返しを受け、殺された。その明り屋さんの亡骸を運ぶのは悠久の昔から村の食を支えてきた天山山脈から流れ落ち、草原にいくつものオアシス都市を育んだ川の流れ。この自然の恵みがある限り、キルギス人は子子孫孫生きていけるとも主張されているように思われた。
 映画では物語を展開する節目ごと、ごく自然に伝統的馬術コク・ポクが披露されたり、中国人投資家をもてなすためにキルギス遊牧民の伝統的な移動家屋であったユルタ、日本ではモンゴルと親しいせいもあって、モンゴル語でいうところのゲルという呼称の方が親しみやすいが、そのユルタを建ててゆく様子などもみられてフォークロア的にも興味津々である。また音楽ファンには民族楽器コムズ(弦楽器)の合奏シーンなどもあって見逃せない。   

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