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映画「やがて来たる者へ」 ジョルジュ・ディリッティ監督

映画「やがて来たる者へ」 ジョルジュ・ディリッティ監督
やがて来たる者へ

 
 スペインの画家ゴヤに「戦争の惨禍」という連作の銅版画がある。着衣と全裸の「マハ」像や、王家一族を辛辣な眼で見つめた「カルロス四世の家族」といった作品で知られる19世紀前期の画家だが、私自身はゴヤの仕事で後世に遺贈されるべき仕事は戦争の実相を敵・味方という立場に偏重することなく描き切ろうとした「戦争の惨禍」だと思っている。4部作の巨著ともいうべき『ゴヤ』を描いた堀田善衛さんも「戦争の惨禍」の考察に多くの紙数を費やしているのも頷ける。戦争の悲惨を客観的に描くだけでなく、画家自身が〈戦争〉を一個人としてどのように観察し、考えたかを留めた最初の人間の仕事として重要なのだ。
 映画『やがて来たる者へ』をみながら私はしきりにゴヤの執念を感じさせる連作版画を思い出していた。
 映画の舞台は1943年、大戦末期の北部イタリアの僻村。時季(とき)、イタリア南部は連合軍によって占拠され、ファシスト独裁者ムッソリーニは北部地方をドイツ軍庇護下で命脈を保っているに過ぎない。そして反ファシスト派パルチザンがドイツ軍に対して果敢な抵抗闘争をつづけていた。
 ゴヤの連作版画もスペインを占拠したフランス・ナポレオン軍に対する農民のパルチザン、ゲリラ闘争の過程に取材した作品であった。
 1944年9月から10月、ドイツ軍はパルチザンに協力する山村として、ボローニャ近郊の住民に対して組織的な大量虐殺を行う。無抵抗の農民771人と、パルチザン約50人が殺されたといわれる。犠牲の多くが子ども、女性、そして老人であった。大戦下のイタリアで起きた最大の悲劇であり、イタリアでは誰もが知る歴史的事実だ。映画は、この虐殺事件の顛末を描く。と書いてしまえば、これまで無数に制作されてきた反戦モノという枠組みに安住するようなので、あわてて修正したい。
 この事件を扱うことはイタリア人になにがしかの傷を疼かせるものだろう。
 ムッソリーニを逮捕、処刑したのがイタリア人自身であった、という“名誉”があるにせよ、一時代、ヒトラー政権と同盟したイタリアにはスペイン市民戦争はむろん、大戦下でも自ら手を汚してしまったという負い目がある。
 戦争は、個人の倫理感など消し飛ばされる。欧州を制圧したナポレオンの言葉に、「戦争をして戦争に営ましめる」というのがある。戦争には戦争という事実のなかでしか語れない真実があり、それは予測できない事柄なのだ。
 イタリアのパルチザンのなかにだって、かつてムッソリーニ軍の将兵として従軍したものがあっただろうし、ドイツ軍とともにユダヤ人狩りに手を染めた者だっていたはずだ。パルチザンが武器に精通し、戦闘の仕方を熟知していたという事実が彼らの来歴をうかがせる。
 監督はドキュメンタリー作家として堅実な仕事をしてきた人。日本人には分からないが、出演俳優には北部地方のイントネーションで語らせているということだ。そして、出演者の大半が地元でキャスティングされた非職業的俳優で、無名性を貫くことによってよりリアルな映像を獲得された。
 悲劇の語り部は、口のきけない少女マルティーナ(グレタ・ズッケリー・モンタナーリ)。言葉を発しないのだから“語り部”というのは語弊があるが少女の瞳・視線、そして行動が事件の推移を雄弁に語る。永遠の沈黙を強いられた犠牲者の生活の途絶の瞬間を見守る視座を少女が担った。監督が事件を客観的にみようとする視座でもある。言葉を発しないから観客は、それぞれの言葉で印象を語るしかない。そのあたりが観客の胃の腑に留まる効果となっているはずだ。
 映画に登場するドイツ将兵の姿形が美しい。ハリウッドの大戦モノにおけるドイツ将兵は悪辣で冷血であったりする。同じイタリアのヴィスコンティが描くドイツ将兵なら退廃美の気配がある。しかし、本作におけるドイツ将兵の若者は健康的な若さにあふれ、みな美男なのだ。そんな若者が平然と子や老人を殺戮する。それが「戦争が営ましめる」行為だと主張されているようだ。
 物語は大戦下の北部イタリアだが、それは象徴的な意味でのステージに過ぎない。現在只今、同じような悲劇が世界のどこかで繰り返されている、と告発されている。  

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