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映画『僕達急行 A列車で行こう』

『僕達急行 A列車で行こう』
          森田芳光監督
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 昨年12月、クリスマス直前に森田監督の訃報に接した。本作の世評を待たずに鬼籍入りした。その遺作が筆者にとって今年、最初の映画となった。
 年初の映画に暗く辛気くさい作品は忌避したい。寅さん映画が健在であった当時は年末の締めくくりか、年初の映画として葛飾柴又界隈の風情を楽しんでいたものだが、それがなくなって、その都度、作品を選ばなければならなくなった。で今年、年初の映画として東映の試写に足を運んでみたのが本作だった。善意にあふれたハートフルな作品。けれど森田監督の遺作ということで、やはりなんとなしに重い。
 この監督の映画譜には一貫性がすこぶる希薄で、すこぶるつきで変わっている。異形、と言ってもいい。一作毎に趣向を替えてくるのであってみれば変幻自在と称えてもいいのだろう。ともかく作品のあいだには見事な断然があって、大ヒットした前作の手法を安易に次作に持ち込むことをしない監督だった。そういう姿勢を表現者として自ら課してきた人だ。
 それは娘の結婚をめぐる家庭劇を繰り返し撮りつづけて人生の哀歓を謳いあげてきた名匠・小津安二郎監督の対極にある作風だった。こういう監督は世界の映画史のなかでも非常に珍しいのだが、その辺りの検証はいまからはじまるのだろう。
 本作には独特の脱力感が漂っている。それも意識的に操作ないしは計算された気配だ。そういう演出もうまい監督だった。主演の二人にも強いて演技をつけず、セリフの抑揚も心許ない。それに反して二人をとりまく助演陣に、笹野高史、伊武雅刀、松坂慶子といった芸達者を配置し、大いに演じさせて二人の頼りなさがわざわざ際立つようにしている。
 その二人とは電車のメカニックな部分に興味をもつ鉄道オタクで零細鉄工所の息子・小玉健太(瑛太)と、鉄道が見える景色を溺愛する大手不動産会社の営業マン・小町圭(松山ケンイチ)。趣味の領域で意気投合して培われる友情を機軸にして、それぞれの仕事を達成するという、まことに牧歌的な世界が展開する。ひと言でいえば鉄道オタクを肯定的に描いた毒にも薬にもならない映画、だと思う。
 鉄道オタクが多いことは知っているが、その数とて社会になにがしかの影響を与えるものではない。あくまで極私的行為だ。この映画をみていて鉄道オタクといっても、それぞれ特有のこだわりがあって細分化し、極々私的行為の集積であることを教えられた。切手のコレクターが昆虫切手に特化したり、印刷ミスの希少切手の探索に没頭すれば、消印を偏愛する人もいる。趣味的領域は必ず極々私的行為が存在する。わがラテン音楽にしてもタンゴ好きとレゲトン好きとでは人種がまるで違う。
 要するに人間は多種多様、不可思議なことに偏愛する生き物である。人畜無害な偏愛ならいいが、時に人の生き死を左右しかねない偏愛もあるから始末が悪い。三宅坂にながく働いてきた経験からいえば、倫理観も希薄な哲学もなにもない人間が、政治の属性としての「権力」や「金」に偏愛している。そういう輩の多いことを知っている。空疎な政治の言葉を操るのが得意な人間が多いとき、その社会は人的被害を受けざるえない。
 森田監督は現代風俗を鋭敏に批評してきたが、政治的な批評行為は慎んできた。70年安保世代で、全共闘の活動に参加した表現者としては珍しい。政治に飽(う)いていたのかも知れない。 
 監督自身、鉄道オタクの片割れであったらしい。脚本にはそのこだわりがある。できるだけ多くの路線で撮影したいということで、映画には20路線、車輛が80モデルを登場する。といっても鉄道オタクでもない評者には、その差異のこだわり、その面白さ、深さ(というものがあれば)も分からない。分かろうとも思わない。ただただ、その世界には深い深い奥行きがあるということだけは否応なく感得できるのである。そして、わが身の嗜好を顧みる効果がある。そういう映画だ。
 ともかく寅さん映画のように、善意にあふれた人ばかりしか登場しない。その意味でも森田映画のなかでも出色だ。本作を遺作と自覚してメガフォンを取ったわけではないだろう。しかし、俗界の欲から解放され、まるで解脱の境地に達したような性善説だけで成立している映画が遺作といなったのは、いかる偶然か……。
 最後に記しておきたい。森田監督の若き日の出世作『家族ゲーム』(1983年)が完成した時、親しくインタビューしている。とてもさわやかに雄弁であった。軽やかに意欲に満ちていた。筆者と同学年だった。
 森田芳光監督……片道切符を手に銀河鉄道に乗って、たぶん天国を目指しているのだろうか。アディオス!  

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