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映画『善き人』 ヴィセンテ・アモリア監督

映画『善き人』 ヴィセンテ・アモリア監督
 映画「善き人」


 経済力でいえば、現在のユーロ圏で独り勝ちといった状況にあるのがドイツ。ユーロ諸国の経済危機をしり目に輸出量を延ばし潤っている。そんなドイツをみて、近隣諸国はまたぞろ悪しき歴史が繰り返されるのではないかと懸念を強める。二度の大戦の猛省から誕生したユーロだが、各国の基礎体力そのものは変わらない。ドイツはいつのまにかユーロの牽引国、言い方を変えれば覇権国家になったと危惧する人たちが多い。危惧する所以も本作をみるとなんとなく分かるような気がしてくる。
 東西ドイツが再統一された辺りからこの国の映画(あるいは映画界)の歩みを眺めれば、そこに雄弁な軌跡が浮かび上がる。東を併合し、その負債をなんとか克服してからのドイツ映画は、慎重だが、したたかに堅実に足元を踏みしめながら第2次大戦の見直しを……強いて言えば控えめな民族史観でもって行っている。
 2004年、『ヒトラー~最期の12日間』が公開された。この前後からドイツ映画は変調したように思う。同作は、弱さをひめた生身の、そして孤独な人間として同情すべきところもあった、というふうにヒトラーを描いた。むろん、ヒトラーを肯定的に描き出すのはけしからんとの反撥も当然、強い声となって発生した。06年には『ドレスデン』が登場する。敗色が濃厚な1945年2月、歴史的な文化都市ドレスデンを米英軍は空爆を敢行。徹底的に破壊尽くした。この空爆をドイツ人の視点から批判的にみつめた映画だった。07年にはヒトラーを「狂気の独裁者でない、ひとりの孤独な人間だった」とのコピーをもった『わが教え子、ヒトラー』が登場。そして今、『善き人』に接する。
 本作の主人公は作家志望の大学教授ジョン・ハルダー(ヴィゴ・モーテンセン)。彼が書いた小説、それは不治の病いに苦悩する愛妻を、夫が懊悩の果てに「尊厳死」させるという物語だったが、これをヒトラーが読み称賛した。
 ジョンにはあずかり知らぬことだが、ナチ高官から「総統が感銘し、貴方に、小説とおなじ論旨で論文を書いてくれないか」と要請される。
 すでにナチ独裁下、ジョンの務める大学でもマルクス主義文献、ユダヤ人による著作が焚書にされていた。断ることなどできない。拒むことは死を意味しただろうし、危害は家族にも及ぶ。それにナチの要請そのものは、彼の年来のテーマだ、思想転向でもない。わだかまりを抱えながらも仕事を引き受けた。彼のなかに権力への阿(おもね)りなどないのだが、世間はそうみない。望んだわけではないが、ナチの御用学者になってしまう。しがない一教授は、アカデミックな業績もなく、ナチの望んだ論文一編で文学部長に成り上がる。負い目はあるもののジョンの選択はこれしかなかった、と映画は肯定的に描き出す。
 ジョンには幼な馴染みで第一次大戦ではともにドイツ軍の兵士として戦った親友の精神科医モーリス(ジェイソン・アイザックス)がいた。彼はユダヤ系ドイツ人だ。大戦でドイツのために銃をとったモーリスも迫害され職を奪われ貧窮を極める。それに反比例して、ジョンは大学の要職を務めながら、運転手付の高級車を乗り回す親衛隊幹部へと出世する。彼にユダヤ人への偏見はないが、時代が彼をして親衛隊の制服に馴染ませる。
 モーリスが強制収容所に収監された。ジョンは親衛隊幹部として、ユダヤ人を管理するナチの機密室に入り、親友の行方を追う。この機密室の描写はいままで映像化されなかったもので、ナチズムと先端科学の融合がどういうものであったか、このシーンに凝縮されているようにみえる。それは、コンピューター管理の先駆けのようなシステムの充実、見事さ、当時のドイツはここまで技術革新を進めていたか、と物語を離れて感心するところだ。
 その一室でジョンはキーを打ち込み、モーリスの収監先を割り出す、「調査」という口実で強制収容所を訪れる。そして、悲惨な現実に衝撃を受けるジョン。しかし、この後、彼はどのような行動を執ったか、とは描かれない。現実を知り、狼狽える姿を描き出して終わる。
 この映画の解釈をめぐって意見は分かれるだろう。ナチ独裁下では善良な市民も協力するしかなかった。消極的な加担者に過ぎなかった典型としてジョンが描きだされているという見方も成り立つ。しかし、ナチ独裁に抵抗した市民はいたし、亡命した知識人も少なくない。そういう少数者の尊厳を、毀損しているようにも思えてくる。

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