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書評 チカップ美恵子『チカップ美恵子の世界 ~アイヌ文様と詩作品集』

書評 チカップ美恵子『チカップ美恵子の世界 ~アイヌ文様と詩作品集』
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かつて、中国・海南島に先住民ミャオ族の文化・習俗を取材したことがある。その時、同行した北京のジャーナリストが、「先住民はみなアーティストだが、われわれ漢族は選ばれた者の特権でしかない」と自嘲気味に言った。それから数年後、筆者は中米の小国に住むようになってからマヤ系先住民と親しくなったとき、あらためてミャオ族のことを思い出し、漢族のジャーナリストの言葉を我が身に引きつけた。
 マヤ族の女性は例外なく織物の名手であった。日本でいえば無形文化財級の腕の持ち主が僻村に無数に暮らしていた。彼女たちは皆、ウィピルという貫頭衣を着て過ごす。それも自ら織り上げたものだ。
 アイヌ族のチカップ美恵子さんは全身アーティストであった。なかにでも抜きん出いていたのが、内なる民族の魂に誘(いざな)われるように糸で描いた刺繍であった。
 日本人ならアイヌ族の独特な着衣、衣装を知っているはずだ。呪術的な形態の文様、反復されるシンメトリカルな文様。その謂(い)われを本書を読むまで知らなかった。「ゆるやかに曲がる」を意味するモレウと、「棘」を意味するアイウシの二つの基本パターンで構成された文様であった。モレウは水のさまざまな変容であり、アイウシは北海道各地に生育するタラ、ハマナスの棘から来ているらしい。
 本書にはチカップさんが亡くなったとき、手許に遺された刺繍99点と、生前、書き残した詩もすべて収録されている。「鳥」を意味するチカップは筆名。戸籍では伊賀。和名は明治時代、和人(大和族)が強いたものだ。だから彼女がアイヌを象徴する作品を発表するとき和名を忌避した。
 チカップさんはムックリ(口琴)を奏し、アイヌ語で伝承歌も歌う。舞姫でもあった。「生きることがすべて文化なんです」と語った。
 61年の生涯をまさに全身表現者として生き抜いた。その重要な表現活動の優先事項にアイヌ民族の人権を回復する闘いがあった。それは不退転の決意として10代から倦むことなく持続された。闘いの生涯であった。
 日本政府がアイヌ族を、日本列島の「先住民族」と認めるのは2008年のことだが、この時、チカップさんは病いに冒されていた。
 刺繍作家だが寡作だと思うし、詩の数も少ない。アイヌ族の尊厳を求め闘いつづけた独りのアーティストとして私的な観照の世界に安住できなかったからだ。しかし、遺作は、後継者に汲めども尽きない教本となったように思う。
 カムイ(アイヌ族の神)と対話する言葉としてのモレウとアイウシはアイヌ族が生きる限り無限の創造の泉となることを示唆しているのだ。
▼北海道新聞社刊・2500円(税別)

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