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映画 アフリカを描く 『ル・アーヴルの靴みがき』 アキ・カウリスマキ監督

 映画『ル・アーヴルの靴みがき』
     アキ・カウリスマキ監督
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 舞台はフランス第2の港湾都市ル・アーヴル。御大のサルコジ大統領を旗頭にフランスは世界有数の移民社会だ。移民たちの政治貢献はもとより、文化的貢献度の密なることでも米国並みではないのか? しかし、移民社会はどうじに不法越境者問題を抱える。これも米国と状況は酷似する。
 いま、フランスで大きな港を背景にして〈現在〉を批評する映画を撮ろうと思えば、不法越境者の影はどこかに出てきてしまう。彼らを無視して映画を撮ることはできる、しかし、誠実な態度とはいえないだろう。ギリシャの財政破綻を引き金とするユーロの経済危機のなかでドイツとともに比較的安定している同国に職を求めて不法越境者が流入するのは、水が高きから低きに流れるように自然現象だ。
 本作に登場する不法越境者は中部アフリカの大西洋沿岸国ガボンからやってきたひとりの少年。改造コンテナのなかに息を潜めてル・アーヴルに荷揚げされた。コンテナのなかで苦楽をともにした数十人のガボン人は荷揚げされた途端、拘束されてしまう。彼らのその後の悲劇は語られない。一銭も稼ぐことなく強制送還される人には借金が待っているだけだ。しかも貧困者には過重の大金だ。彼らは生きるためにどのような選択をしていくのだろうか。
 少年は逃げ出すことに成功したのだ。といってもパスポートももたない不法越境者が生きてゆくには泥棒でもするしかない。そこに登場するのが誇りだけ高い貧しい靴磨きと、彼の友人たち。ヒューマン・ドラマだが、押しつけがましさがないのがよい。
 フランスはかつてアフリカや東南アジア、カリブの西インド諸島などで多くの植民地を経営した国であり、現在なお「海外県」に昇格させて統治している。必然的にフランス語を公用語とする南の国の貧しい民が流れ込んで来るのは止む得ない。
 フランスの三色旗は「自由・平等・博愛」を象徴する。人権思想の鼎(かなえ)をトリコロールした。けれど、そこから外国人はこぼれる。フランス革命の後、フランスは植民地を武器で維持し、多くの民衆の「自由」を奪う、「平等」に無関心、「博愛」のかけらもなかった。フランスは核兵器保有国だが、その兵器としての核の実験場はいつも植民地であった。
 カウリスマキ監督は、自由と平等は実現されたためしはない。けれど「博愛の精神だけがどこにでも見つけることはできた」と語っている。その「博愛」について、庶民の目線から語った映画でもある。
 不法越境者の問題はドラマを創りやすい。経済のグローバル化が叫ばれるようになってから不法越境者を主人公にした映画が急増しているのも、語りやすいからだ。フランスではそうした秀作が年に1本以上、制作されている。
 越境者は存在そのものが激越なドラマだ。母国を離れるという選択、生木を剥ぐような別離、それも自分の意思に反する政治的迫害、貧困などによって流浪の道しか選べなかった人たちの物語だから。そうした悲劇をベースに挿話を積み上げればたちまち何本もシナリオは書ける。安易な社会派映画はいくらでもできる。しかし、政治的にノンポリ、自分のちょっとした行いが「博愛」ともなんとも思っていない日常的な些事の積み重ね。それが結果的に一人の少年を救うことになる・・・という話をカウリスマキ監督はじつに巧みに演出して善意の臭みがない。フィンランド、いや欧州を代表する監督として揺るぎない地位を築いた人の手練だと納得できるのだ。
 ガボンからやってきた少年が最終的に目指すのはドーバー海峡の対岸の英国。ロンドンで家政婦として働いているらしい母親を探すためだ。無事、英国に密入国しても少年の多難がいささかも減じるわけではない。
 パスポートさえあればドーバー海峡を超えるのはなんでもない、通勤・通学の行き来のようなものだが、パスポートをもたない者の前では巨壁となる。ここでも危険をおかして密航するしかない。密航にはカネ金とウンが必要だ。そこで初老の靴磨きを中心に隣人が知恵を出し、少年を貨物船に隠して送り出す。その日常的な工夫の描き方が良い。肩肘はらずに淡々と身の丈に応じてやろうという雰囲気が自然で良いのだ。むろん、それだって映画のお話なのだが、そういう雰囲気を上手につくってしまうのがカウリスマキという演出家なのだ。
 心あたたまるフランスの港町の話だが、監督には、こんな不平等な南北格差を生みだした当事国のひとつが16世紀以来、〈南〉の民衆をさんざん搾取してきた「三色旗」なんだぞ、とぶつぶつと言っているようにも思える。  

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