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歴史に消された女性作曲家の存在と、その豊潤な仕事

歴史に消された女性作曲家の存在と、その豊潤な仕事
 『音楽・女性・戦争』


 あらゆる芸術表現活動のなかで何故か女性作曲家の存在は希薄だった。正確にいえば、希薄にされてきたというのが正確だろう。
 音楽史のなかに多くの「優れた」と形容される女性演奏家の名が出てくる。しかし、女性作曲家の名はない。何故? という素朴な疑問に答えてくれるセミナーが1月26日、東京・早稲田大学で「戦争と女性への暴力」リサーチ・アクションセンターの主催で行なわれた。
 吉田隆子


 昨年9月、ETVの特集で戦前・戦中・戦後という昭和の激動期を身を挺して創作活動を行なった吉田隆子(1910~56)の生涯が紹介された。視聴者の反応は大きく再放送が決まった。
 視聴者の多くが「こんなすごい女性がいたのか?」と驚いた。そして、「何故、吉田隆子という存在をいままで知らされてこなかったのか?」という疑問が生まれた。セミナーに集まった参加者の多くの疑問だ。
 その疑問に答えるように、女性作曲家の研究者である小林綾・国立音大名誉教授が『音楽・女性・戦争』と題する講演を行なった。
 冒頭、ETVで放映されたドキュメント番組「吉田隆子をしっていますか?」の一部を小林さんは紹介し、優れた才能であったことを実証的に語りながら、戦前、自前のオーケストラを結成、商業的に運営し、自ら指揮者として定期公演を主催して大成功させた音楽家であったことを語った。音と映像資料がそれを余すことなく語っていた。いまでこそ女性指揮者も珍しくないが、その先駆者であったということすら、音楽専門学校ですら満足に教えられてこなかった。
 吉田孝子は、新劇史のなかにあって名作といわれる戯曲「火山灰地」の劇作家・久保栄の妻であった。夫の作品が築地小劇場などで上演されるとき、音楽は吉田が担当した。
 吉田は当時、男性支配のアカデミズムに抗して、民衆の音楽家としての立場を貫き、そのため治安維持法で半年も拘束され、拷問を受けた活動家でもあった。
 「吉田が生きた時代、日本の音楽界は山田耕筰が頂点に存在し、その山田は時局に迎合する戦時歌謡や戦意高揚曲を無批判に作曲しつづけた。戦後、山田は戦時中のそうした仕事に対する反省も自己批判もせず、同じように楽壇に君臨した。そうした日本楽壇のなかでは、戦中も転向を拒否して時局に迎合することがなかった吉田の存在は目障りなものだった。吉田の作品が演奏される機会を摘み取り、音楽史のなかからも掻き消された」と小林さんは語り、こうした例は欧米にも存在したと強調した。
 小林さんは女性の視点で、いわゆる名曲を検証し直すと、さまざまな差別性が浮かび上がってくるとベートーヴェンの「第九」交響曲を取り上げた。
 「第九はシラーの詩『歓喜の歌』の合唱で有名だが、その詩というものは完璧に男性性で貫かれた差別的なもの。あの詩のなかで女性は完全に無視されている。また、ベートーヴェンの戦闘性は『ウェリントンの勝利』(別名・戦争交響曲)によく象徴されている。英国軍がナポレオン軍を撃破したことを祝賀するために作曲されたものだが、オリジナル譜面では200箇所以上も砲弾発射の指示が書き込まれている。むろん、演奏会でそんなことはできない。録音で砲弾の音が明示されることも少ないが、ここに一枚だけ、砲弾の音がベートーヴェンの指示通り登場する音源がある」と小林さんは紹介した。それは異様な演奏であったが、正直、戦意高揚などには向く演奏とも思えた。
 この日、小林さんが取り上げた女性作曲家は約10人、記録だけで音源が存在しない作曲家は無数に存在するとした上で、音源が存在する作曲家の作品を視聴紹介してくれた。
 視聴した女性作曲家と作品は以下の通り。
 ポーランドの卓越したピアニストで作曲家マリア・シマノスカ(1789~1831)の歌曲『パリ王宮庭園で喜捨を乞う盲者の嘆き』。
 メンデルスゾーンの姉ファニー・メンデルスゾーン=ヘンゼル(1805~47)が才能豊かな作曲家であったことを余すことなく証明する『コレラ・カンタータ』、これは日本でも1998年2月にサントリーホールでミシェル・コルボ指揮で初演されており、その時の録画を視聴した。交響楽の機能を完全に習得したうえで完成された大曲である。
 米国のエイミー・ビーチ(1867~1944)は、ドヴォルザークの『新世界』に対抗して、自らのアイルランド系移民にとっての米国観として交響曲『ゲーリック』を作曲した。これも見事なものだ。2004年10月に日本初演されている。
 英国の女性参政権運動のシンボルとなった合唱曲に『女性の行進』がある、これを作曲したのがエセル・スマイス(1858~1944)。
 吉田隆子の歌曲『お百度詣』は、伴奏のピアノに琴の特有の爪弾きの音色を似せたユニークなもの。
 沖縄出身の作曲家・金井喜久子(1906~86)は西洋音楽の技法のなかに沖縄性を象徴させた仕事を遺した。その作例から歌曲『東西南北』が紹介された。
 「女性作曲家の発掘の仕事はまだ緒についたばかり。女性はながいこと抽象的な思考を強いられる作曲には向かないという“神話”を男性から押し付けられてきた。音楽史はそういう視点で貫かれ、女性作曲家の仕事は無視されてきた。文学や美術とちがって音楽の場合、演奏されないと評価されない。演奏まで大変な時間と労力、そして資金もいるわけです。それが女性作曲家の仕事を埋もれさせた原因となっている。私は微力ながらできるだけ、そうした女性作曲家の仕事を紹介していきたい」
▽4月10日19時から東京市ヶ谷のルーテル市ヶ谷センターでコンサート『吉田隆子の世界~激動の昭和を生きた女性作曲家』が行なわれる。吉田の代表的な歌曲、ピアノ、ヴァイオリン曲が演奏される。主催は、小林さんが前代表を務めた「女性と音楽研究フォーラム」TEL&FAX 03-3381-7989(辻浩美)まで。 

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