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映画『闇のあとの光』 メキシコ*カルロス・レイガダス監督

映画『闇のあとの光』 
 カルロス・レイガダス監督
闇のあとの光

 カルロス・レイガダス監督は1998年~99年に集中的に短編でプライベート・フィルムを撮っている。8mm、35 5mm、DVで意識的に試作した。2002年の長編『JAPON(ハポン)』への助走であった。ハポン、日本……何故? と思って観にいった。メキシコ市中でも資産家たちが多く住む東京でいえば世田谷区の瀟洒や一角にあるアート系のミニシアターだった。つまり、メキシコでも『JAPON』はインテリ層しか関心をもたなかった作品だった。新聞も芸能欄より文化欄で批評されるような映画であった。しかし、一部で熱く指示された。メキシコ滞在中の記憶だ。
 監督のしたたかな批評性に撥ね返された。
 初見の『JAPON』……自分が貯蔵する批評言語を懸命に繰り出しながらスクリーンに流れる時間を追いかけた。しかし、主題を追い越すどころか、手の届く感触すら味わえない、まるでフーガ(遁走曲)であった。言葉として記憶されるのは、それこそ粗筋という残骸のみ。
 ハポンに日本の印象があるわけでもなかった。観映後、要約することの至難、無意味に気がついた。映画は安易な要約を拒んでいた。要約することで大切な何かが零れ落ちてしまうような危うさを覚えた。そんな体験の記憶は今回、同監督の日本における初の劇場公開作となった本作を観終わった後にもいえた。それはタルコフスキーや、初期のソクーロフの映画を何かを想起させる。ロシアの彼らにはソビエト体制下ということで検閲を逃れるための暗喩、隠喩の手法は欠かせなかったわけだが、レイガダスにはそれはまったく不要なわけで強いて選択しなければならない暗喩の絡めては必要なかったわけだ。彼の世界観が直裁に表現されたに過ぎないだろう。「観客」を置き去りしたものであるかも知れない。
 メキシコのとある村で、ファン(アドルフォ・ヒメネス・カストロ)は愛らしいふたりの幼い子どもと美しい妻と何不自由ない生活を送っていた。その家の佇(たたず)まいまいからしてファンの収入はメキシコの平均レベルからして相当なものだと分かるし、社会的地位も高いことはあきらかだ。
 そんな恵まれた家族に「赤く発光」するソレが家を訪問したとき変調し、平和な日常がしだいに歪みはじめ、時間が亀裂し、その裂け目に吸い込まれるように底の知れない深奥に向ってらせん状に突き進む。映像による地獄巡りのような感覚だ。
 掘っ立て小屋でおこなわれるアルコール依存症患者たちの集会、ローマ風のサウナに集まって乱交する上流階級の人たち、資産家の子弟が寄宿する学校でのラクビーの練習光景。ファンの家から金目のものを持ち出す村人、それを咎めて撃たれるファン……乱交パーティーに官能の狂喜の色彩はなく倦怠感すらただよう。性行為がすでに快楽の主座にないことを知る人たちの寂寥がある。そうした光景が前触れもなく、それこそ応接の暇もなくコラージュされていくのだ。
 旧作『ハポン』で学習したレイガダス監督の語り口を参考にしつつ語れば、こういうことになるかと思う。
 劇映画であるからには実際の事件をもとにした作品ではあっても創作である。その創作過程において極私的にフレームを決め、演出し編集までする。商業的な成功など最初から念頭にない。徹底的に自己本位に解釈しつづける。それを堅守することは並大抵の技ではないし、強靭な意志力も必要だ。レイガダス監督はそれを完遂したといえる。
 メキシコ映画黄金期1950~1960年代に独裁者フランコ独裁を嫌悪してスペインから亡命してきたルイス・ブニュエルが我欲で貫徹した作風に通じる。しかし、20世紀の前衛ブニュエルはそれでも観客に対する旺盛なサービス精神は捨てなかった。あざといえるほどの過剰な商業性の毒すらあった。彼の卑俗性はもはやアートとさせいえた。
 しかし、21世紀前半の前衛レイガダスは観客すら捨ててメガフォンを握っている。
 観客は映画館ではじめて発見される存在であるとでも主張しているかのようだ。
 抽象絵画の先駆カンディンスキーが文学言語を捨て、極私的な詩的言語でリリカルな抒情詩を描きはじめたとき絵画芸術はあたらしい地平に歩みでた。レイガダス監督はいま映像の世界でそんな実験を、あたらしい鑑賞法を観客に強いながら開発しているように思えてならない。彼の映画を観るという行為は、その実験過程に現在進行形で付き合うという能動的な行為だろう。実験は得てして退屈なもの。成果を性急に期待してがいけないのだろう。 

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