スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

労働者階級をその日常的視点で描く英国映画の伝統

労働者階級をその日常的視点で描く英国映画の伝統
  ~英国映画に登場する多様な労働者たち


 最近、DVD化が待望されていた英国映画旧作4本がファンの渇望を癒すように一挙に発売され、筆者の手元にサンプル盤が送られてきた。
 長距離
1958、60、61、62年、当時、新進気鋭のトニー・リチャードソンが撮った三作を中心とするライン・アップだが、うち2作が当時、英国でもっともアクチュアルな作家であったアラン・シリトーの小説が原作だ。
 お気づきかと思うが、それらはすべて第二次大戦後、「ゆりかごから墓場まで」という福祉政策を実現させた労働党政権時代に製作された映画ばかりだ。
 労働党政権は福祉政策だけでなく労働者を擁護する施策を次々と実現させた。反面、経済政策では、国際競争というシビアな現実を等閑視した。危機感を抱いても有効な施策は後回しにされた。生産性の低い炭鉱を維持し、エネルギー政策の転換をはからず、重厚長大型の産業にメスをいれることもなく疲弊していった。そんな現状のなかで若者たちの失業者は溢れ、行き場を失った不満が鬱積していた。4本の旧作は、そうした時代を反映した若い労働者たちの憂鬱を反映したものだった。だからその4作はいずれも暗く寒々しい。
その旧作とは、『怒りを込めて振り返れ』、『土曜の夜と日曜の朝』『蜜の味』、そして『長距離ランナーの孤独』の4作。『土曜の~』(カレル・ライス監督・ポーランド出身)以外、リチャードソン監督作品、うち『土曜の~』と『長距離~』がシリトーの原作だ。
 当時、シリトーは“怒れるジェレネーション”の象徴として、世界的に注目されていた作家で、日本でも即、翻訳され多くの読者を獲得していた。現在では、すっかり過去の作家的に扱われているように思うが、ビートルズ登場以前の前衛的なヒーローであったことは確かだ。

 DVDを続けて視聴し当時、見えなかったことも時系列にみると象徴的に浮かび上がってくることがある。
 映画の公開当時、筆者も若かったから“怒れる若者”の一人として、英国の若い労働者に共感しながらみていたわけだが、その若者たちの精神的風土は第二次大戦後の英国産業界の疲弊そのものであった、と今更のように気づく。
 労働者を優遇するのはいいが、その既得権を守ろうとする労働者の平均年齢は年々高まり、それに比例して若者の就業機会は奪われていった。そこに世代間の軋轢が生じ、支持政党も家庭内で分化する。賃金の上昇は産業の国際的な競争力を奪い利潤は低下し、施設の改善は進まずますます斜陽化していく。産業の構造改革は労働者の権利に阻まれる。労働者自身が自分で自分の首を絞めているような現実もあった。悪循環。 思えば北アイルランド紛争の激化、IRAの過激化もこんな時期に若い戦闘員を用意させたのだろう。
 『土曜の~』を久しぶりに観ていて、助演の男優が4年後、ビートルズの最初の映画でロード・マネジャー役を演じていたことを確認。つまり、ここに描かれている若者とは明日のビートルズ世代であった。photo_4.jpg

 ビートルズは港湾都市リパプールから出てくるが、シリトーが描いたのは工業都市ノッティンガム。ビートルズの成功後、英国各地のライブハウスで活躍中のロックバンドが陸続と世界市場に押し出される。現在も現役を活動しているローリング・ストーンズもロンドン郊外の港湾都市ダートフォードの幼馴染が結成したグループだ。
 ビートルズ以降、ポップス音楽は英国の重要な外貨獲得手段となってゆく。その音楽、アーティストのファッションは当時の若者の“怒れる”心情を写し取った怒りの世代言語だった。
 リチャードソン監督が潤沢な予算で映画を撮れるようになった時期、英国民衆は保守党のサッチャー政権を誕生させる。
 重厚長大産業を再編、エネ ルギー政策を抜本的に改革する。炭鉱離職者、国際的競争力を失った企業は次々と倒産、失業者が町にあふれる。そして、リチャードソン監督の後輩たちが、そうした失業者たちを主人公に映画を撮りヒットさせる。それは新自由主義への痛烈な批判でもあったが、時代はその批判をさほど検証しなかったように思える。 (2013年6月記)


★サッチャー政権の構造改革以降に登場する労働者が主人公の象徴的な映画。
 アクション絡みや、北アイルランド紛争の現実も交えた映画まで多彩な題材で製作されているが、ここでは国際的評価も高く、娯楽映画の枠組みできっちり当時の英国労働者のおかれた“現況”を反映させているという意味で3作紹介しておきたい。すべてDVD化され、レンタルできるという意味からも選んでみた。
 『ブラス!』1996年製作。マーク・ハーマン監督*ヨークシャーの小さく古い炭鉱町グリムリー。経営難から閉鎖されようとしている。労働組合は存続か、高額退職金を獲得するかで二分され、仲間割れ。そんな秋風が吹くなかで炭鉱労働者で作られているブラスバンドは長い伝統をもつ。炭鉱が閉鎖されれば、そのバンドも解散となる。そのバンドのメンバーの個々の心情を描き出したハートフルな傑作。
 『フル・モンティ』 フィル・モンティ
1997年*ピーター・カッタネオ監督*かつて鉄鋼業で繁栄した工業都市シェフィールドだが、産業は衰退し中小工場は次々と倒産、不況の嵐吹く町が舞台。鉄工所を解雇された男6人、再就職活動も万策尽き、窮余の一作として「鉄鋼ストリッパー」なるものを結成、奮闘努力の末、ステージに立つまでの経過を描いた傑作。映画の成功は、米国ブロードウェイでミュージカルされヒットした。
 『リトル・ダンサー』2000年*スティーブン・ダルダリー監督*1984年北部の炭坑町エヴァリントン。転職を考えひそかに煩悶する炭鉱夫の父と、一人息子の物語。父は自分が実現できなかったプロボクサーの夢を息子に託そうとするが、息子は古典バレエに魅せられてしまう。父の反発をさけ、こっそりレッスンを続けるもバレてしまう。やがて和解、父はバレエを理解できないあが息子を信じて支援、なけなしのカネをはたく。

 番外作として最近、DVD化された『マーガレット・サッチャー』(2012年*フィリダ・ロイド監督)を取り上げておく。名優メリル・ストリーブの好演でアカデミー主演女優賞を獲得した。サッチャーの評伝映画だが、当然、政権側からみた英国労働者の当時の窮状などを描いている。映画はそれを批評するのではなく、ありのままに参考資料として提出しているように思える。英国現代史を勉強するにも良い映画だと思う。
「ブラス!」1996年*マーク・ハーマン監督*ヨークシャー炭鉱町グリムリー舞台。


英国現代史

 1945年7月、戦後初の総選挙によって労働党が勝利。議席の過半数を占有したため労働党単独政権に。
 第二次大戦で荒廃した英国の戦後再建策は労働党主導による福祉国家政策と、石炭、鉄道、通信などの基幹産業の国有化。そして、インドやパキスタンなど多くの植民地の独立を容認した。
 1956年、エジプトによるスエズ運河国有化宣言によって第二次中東戦争が勃発。運河の利権を握っていた英国、フランスは撤退。これによって英国は中東地域の植民地も失う。
 1970年代初頭、旧態依然とした階級制度は残り、工業設備の老朽化などもあって経済の活力は失われ、「英国病」といわれるほど経済状況は悪化し、これに追 い打ちをかけるように1973年、オイルショックによって大きな打撃をこうむった。
 1979年、有権者は労働党を見限り、マーガレット・サッチャー党首の保守党を大勝させた。
 サッチャー政権は、「小さな政府」を標榜し、規制緩和や福祉制度を抜本的に見直す大胆な改革を実施し、労働党や労働組合の力を政策的に殺ぎ、戦後、労働党政権下で国有化された基幹産業の民営化、炭鉱を次々と閉鎖、重厚長大型産業も切り捨てた。
 この結果、工業地帯は活力を失い、失業率は激増し、製造業は衰退した。その半面、北海油田の生産が伸び原油輸出価格の高騰により、対外収支は黒字になった。最近のスコットランド独立の機運は、この北海油田の権益が大きく絡む。
 1982年、フォークランド紛争(アルゼンチンではマルビナス戦争)でア ルゼンチンに勝利、強引な経済改革などにより一時的に落ち込んでいたサッチャー首相の支持率は“戦勝”で回復したが、ラテンアメリカ諸国を中心に英国を支持した米国に対する見かたは変化する。米国主導の米州機構(OAS)で謳う域内連帯を米国自ら破棄したからだ。
 1983年、英国鉄鋼会社の合理化を推進、従業員を半減。
 1984年、24の炭鉱を強制閉鎖、約2万人を解雇。
 1993年、EU(欧州連合)発足。イギリスはEUの単一通貨ユーロの導入に対して保留権を行使し、独自通貨ポンドを維持、EU内の人の移動の自由化を保障したシェンゲン協定にも署名せず、英国はEUに対し一定の距離をおいている。
1997年、総選挙で保守党は大敗し、トニー・ブレア労働党政権が誕生し、福祉政策の見直しなどリベラルな姿勢を執った。

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

上野清士

Author:上野清士
店長の最新著書

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
カレンダー
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
FC2カウンター
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。