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グレンツェン・ピアノコンクール

グレンツェンピアノコンクール
 ~日本のピアノ演奏の水準を下支えする

 毎年、著名な国際コンクールに上位入賞者を送り出している日本のピアノ界。それはピアノ教育が幼児期から充実していてはじめて実現できることだし、ピアノ愛好者の裾野も広く地味豊かだという証拠だ。
 その裾野の土壌をさらに豊かにしようと、毎年、滋養を与えているのが全国規模できめ細かく予選を組む「グレンツェンピアノコンクール」だろう。

 1990年、鹿児島県の大隈半島に位置する小さな町で、そのコンクールは産ぶ声を上げた。
 当初の全参加者はわずか110名。
 「ワープロ片手に九州県内をくまなく回り、文字通り東奔西走して普及に全力投球したつもりでしたが結果はみじめなもの惨たんたるものでし た」と語るのは同コンクールを主催してきたグレンツェンピアノ研究会の井上増實さん。新参のコンクールに対する反応はまったく冷ややかなものだった。「後悔」すらしたようだ。
 しかし、井上さんはあきらめなかった。薩摩人としてのプライドか執念か。薩摩人の男意気を称して“薩摩っぽ”といい、その性格を猪突猛進ともいう。20年前の井上さんといっても、けっして若くない。還暦を翌年に控えた59歳。並みの人間なら新事業を立ち上げようとは思わないだろうし、余生、という人生の第二ステージへの気持ちが傾斜しているのが自然だろう。ましてや九州の田舎から全国発信できるピアノコンクールを、と誰が考えよう。しかし、井上さんは前傾姿勢を自らに強い実行した。畏敬すべき行動力だ。
 スタートの蹉跌(さてつ)を教訓に、井上さんは「歯を食いしばり」、地道な努力を重ね 、回を追うごとに参加者を増やしていった。井上さんも「右肩上がりで参加者は上昇した」と自負を込めて強調した。
 今年2012年には全国130会場に約4万の参加者を数えた。
 本コンクールの特徴を井上さんの言葉で語れば、「幼児より大学生、一般人までピアノを愛するすべての年齢層に光を当てていることです」となる。
 幼児コース、小学生低学年・高学年コースとカテゴリー化し、課題曲も、「幼児コースなら五度音程内で動き、主に単純なゼクエンツを使用しているものから選曲」するなどきめ細かく選定する。コンクール部門コースは12もある。こうした配慮が広く認知されるようになり、参加者にとって間口の広いコンクールとなっているようだ 。
 しかし、全国各地で予選をおこない、カテゴリーが多いということは、同時に会場の確保、審査員の数も比例増となる。現にコンクールのホームページに紹介されている審査員の数だけでも約90名を数える。
 「お子さんたちの年齢に応じ、感性を大事にし難易度や、演奏時間の長短などを配慮した結果、必然的に課題曲も細分化され多岐に渡り、結果として審査員の数も多くなりました」と明快に、そして当たり前の成り行きです、というふうに答えてくれた。
 確かに言葉でいえばそれだけのことだが、事業としての煩雑さは大きくなるが、井上さんにとってコンクールが成功すればと苦にならなかったようだ。
 発足から20年、コンクールを牽引してきた井上さんの79歳となった。けれど井上さんが目指す高みはまだ先にあ
り、現在はまだ登攀 中にすぎないという。井上さんはこんなことも言った。
 「演奏時間や難易度に拘束されず、自由で大らかな表現が可能な課題曲を設定していきたのです」と、それは、おそらく世界中のコンクール主催者が望むことだろう。見果てぬ夢のようなものだ。いまだ誰も実現していないことだ。

 九州の南端から発し、東京築地の浜離宮朝日ホールで入賞記念コンサートを開くまでに育てた井上さん。この人が牽引者となっている限り、多彩な課題曲が並んだコンクールも夢でないように思えてくる。
 最後に、地方発信のコンクールとして地元鹿児島で全国大会を開くことは考慮されているのか、と訊(き)いてみた。
 「むろん心情的には実施したいと思います。けれど、参加者の大半が東京での演奏を願望していらっしゃいます」
 本コンクールも参加者の立場に立てば答えはそれしかないようだ。浜離宮朝日ホールはご存知のように室内楽演奏会場として定評のあるところ。ピアノが良く響くホールだ。コンクール参加者は誰だって、そこで自分の音を確かめてみたいだろう。 (月刊『ショパン』誌掲載。2012)

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