スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

メキシコ音楽の祭典「オーケストラ・コンサート」

メキシコ音楽の祭典「オーケストラ・コンサート」

 意匠に富み刺激的な音響の世界にどっぷり浸れた至福の時間を過ごした……と冒頭に賛辞を記したのは筆者の拙い私評に退屈し、途中で活字から目を離してしまう読者に、それだけは伝えておきたかったからだ。

 クラシック系のコンサート、特にオーケストラの定期演奏会ではしばしば「委嘱作品」の初演の場に出くわすことがある。ピアノやヴァイオリンのソロ・コンサートでも初演曲はよくある。しかし、オケによる初演には仕込みに時間が掛かることを知っているから、出来映えはさほどでないと思っても・・・なんとなく演奏後、拍手に力がこもってしまうものだ。ご苦労さん的なねぎらいの拍手である。しかし、当夜の交響によるメヒコイズムの豊穣に贈られた聴衆の拍手は新鮮な世界に誘ってくれたことに対する率直な謝辞として心から拍手することができた。私の周囲に座っていた聴衆の拍手からも私はそのように感じていた。
 当夜の白眉はカルロス・チャベス「ピアノ協奏曲」。
カルロス・チャベス

チャベスの唯一のピアノ協奏曲だ。マヌエル・マリア・ポンセとともにメキシコ楽派を確立した作曲家であり、メキシコ交響楽団との設立とともに正指揮者となってメキシコの色彩感を創出していった才能だ。手勢のオケをもつことによって自前の創作もよく練り上げられるといった恵まれた環境を維持した人でもあった。その手勢の音を鍛えあげることによって生まれたのではないかと思わせる「協奏曲」であった。
 難曲だ。そして、ピアニストに絶え間ない緊張と打鍵の明晰な強さを最後まで強いる。体力もいる剛直な作品だ。これを練り上げ、堅牢な世界を築き、聴衆を説得するまでの感興に満ちた演奏をものにするにはそうとうな練習がいると思われる曲だった。
 ピアニストのゴンサロ・グティエレスはそれをみごとに達成していると思った。3楽章、約35分の曲ということでは通常の形式だが、冒頭から最後まで強い打鍵でほとんど間断なくピアノは演奏しつづける。それはオケとの協奏というより競奏ともいえる。第3楽章にはハープとの応答するながい展開がある。通常、装飾的効果を高めために断章しか与えられていないハープを、チャベスは雄弁な声として聴かせる。それはまるで男(ピアノ)女(ハープ)の熱情を展開しているように思えた。この作品をハーピストが聴いたら是非、演奏したいと願うことだろう。そして、20世紀のピアノ協奏曲としてもっとプログラムにあがって良い作品だと思う。そう思わせるだけの弾奏をグティエレスは見事に展開していたし、ホセ・アレアンは短時間でよく東京フィルハーモニー交響楽団にメヒコイズムの滋養を添加したものだと思った。ピアノは鍵盤楽器という名の指による打楽器であるというテーゼをグティエレスは10本の指を撥として証明しているのだった。この後に、ピアノ線を直接叩くジョン・ケージの世界が待っていた。

 メヒコイズムの芳香がもっとも強かったのがシルベストレ・レブエルタス交響詩ともいうべき二つの作品『センセマヤ』と『マヤ族の夜』だった。
シルベストレ・レブエルタス
 オープニングで『センセマヤ』を、フィナーレに『マヤ族の夜』で構成したプログラムはできすぎといった観もあるけれど、その祝祭的音色は聴衆をメキシコ民族主義といったものを感得させるのにはとても効果的なものだった。おそらくメキシコ革命の熱狂をもっとも深甚にうけとめながら作品を書いた作曲家がレブエルタス。
 表題でもわかるように古代マヤ文明にメキシコ文化の始原を求めた作曲家はマヤ族だけでなく、メキシコ諸先住民の伝承習俗に残る音響の世界に耳を傾けた。先年、日本でも公演が行なわれたメキシコ国立民俗舞踊団のヤキ族の舞踊ナなどを彷彿させる多彩な打楽器の響きもあれば、センチメンタルな笛の音色が印象的な慰安の世界を造形していた。

 メキシコ楽派のもう一方の雄ポンセの『ヴァイオリン協奏曲』について書くスペースは残されいないが、国民的な古典歌謡「マニャニータス」の主題が活かされた第3楽章をもつ作品でメヒコイズムを体現しながらも古典的骨格をもった19世紀ロマン主義に正統につらなるものだった。
 今後、日本でも積極的に取り上げていって欲しい作品ばかりであった。心地よい興奮を熱した身体を会場から送り出してくれたアンコール曲も気が利いていた。アルツーロ・マルケスの『ダンソン第2番』、大戦後のメキシコ楽派を代表する作曲家で、もっとも良く知られた曲ではないかと思う。ダンソンとはいうまでもなくキューバ起源、メキシコ湾岸都市ベラクルスに定着したダンス音楽の定番。メヒコイズムてんこ盛りの至福の時間だった。 
 *2014年3月30日、東京オペラシティコンサートホール 

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

上野清士

Author:上野清士
店長の最新著書

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
カレンダー
09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
FC2カウンター
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。