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映画『グランドピアノ』 エウヘニオ・ミラ監督

映画『グランドピアノ』エウヘニオ・ミラ監督

グランドピアノB

 独裁者フランコ総統の死後、長年、堰き止められてきたスペインの“自由”の水が流出し、やがて奔流となり、いまは大河となって悠々たる流れとなっているように思う。
 スペインのアートシーンは現在、実に多様多彩、変幻自在の万華鏡をみるような思いがして眩い。特に映画という媒体はフィルムに載せて音楽・美術・ファッションを詰め込み送り出してくれるから定点観測するには絶好の対象物。本作はサスペンスの醍醐味を「音楽」を滋養としたする。
 
 その音楽とはピアノ曲、様式は20世紀音楽の潮流に位置づけられる緊張度の高いピアノ協奏曲ないしは、ピアノとオーケストラのための狂詩曲といった感じに仕上げられている。しかも、そのピアノは通常の88鍵の下に9鍵の低音部を拡張して97鍵盤をもつベーゼンドルファーModel290インペリアルが使用される。
 20世紀を代表するピアニストであり作曲家であったブゾーニの求めてよって製作されたピアノだ。バッハのオルガン曲を編曲する際、低音部に通常のピアノでは出せない音があったために考案された。映画の表題は、このピアノを象徴する。
 
 このピアノを映画の準主役として語るために作曲家ビクター・レイエスは事前にスコアを書いた。シナリオの要請に応じて、その特色ある中低音の9鍵を活かすスコアを用意しなければならない。管弦楽との融合、協奏部もおろそかにできない。音楽は陳腐であってはならない。
 主人公トム・セルズニック(イライジャ・ウッド)が稀代のピアニストという設定だから「難曲」に……。で、その曲はラフマニノフ、スクリャービンあたりの影響を濃く受けた仕上がり。スペイン映画、スペイン人キャストということで評者は、20世紀
スペインのピアノを象徴するフェデリコ・モンポウあたりを意識した曲を聴けるかと思ったが、それは心地よく裏切られた。

 映画の進行上、ピアノが沈黙し管弦楽だけの間奏がしばしば出てくるスコアだ。ピアノを弾奏するシーンでは主人公であるピアニストの内面葛藤を表出し、間奏のシーンではピアニストをステージから放し舞台裏を走らせるように仕上げている。
 しかし本作は音楽映画ではない、あくまでサスペンス映画なのだ。音楽そのものをキーワードとしたアイデアに富む娯楽作だ。本作を観ながら筆者は1998年に日本ファンタジーノベル大賞を受賞した長編小説『オルガニスト』(山之口洋)を思い出していた。
 カトリック聖堂のパイプオルガンの仕様を把握し、バッハのオルガン曲を熟知した上で描かれたサスペンス小説であった。鍵盤とペダルの複雑が絡みあいで送風する空気圧が変化する。それの変化にあわせて起爆装置が稼動するという発
想は実に巧みであった。行間にあふれるバッハに呪縛されながら読むことの喜悦する味わえた。
 『グランドピアノ』のキーワードも鍵盤上にある。それがプラス9鍵を使った箇所、最終楽章に演奏技術上、至難の技を要求する難所を設け、もし誤打すれば、ピアニストの最愛の妻が殺害される、という仕掛け。そのピアノ曲約1時間あまりだろうか、その前後の挿話は別として、本編はあくまで、そのピアノ曲が初打されたときから動く。
 
 主役のウッドは、世界的なヒット作『ロドー・オブ・キング』のホビット役で良く知られる俳優だが、本作では、そのほとんど
をピアノの指を取られながら、つまり極めて限られた閉鎖空間のなかで複雑な感情表現を強いられるという難役に取り組んだ。
 幾多の俳優が配されているが、主役と助演陣のあいだには隔絶した開きがある。ウッドはホビットのイメージを懸命に払拭しようとしているのか、『ロドー・オブ・キング』以降、実に多様多彩な役柄に挑戦している。もう少し脚本を読み込んでからオファーを受けたら、と思う作品もあるが、それもまた俳優としての履歴の出発にあまりにも大きなあたり役を取ってしまった俳優の必要な寄り道なのかも知れないと思う。 (2014年記)

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