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マルビナス紛争を描いたアルゼンチン映画

マルビナス紛争を描いたアルゼンチン映画「ステイト・オブ・ウォー」(トリスタン・バウアー監督)

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 陰々滅々とした話だ、と思えば覚悟をもってみられるだろう。
 シリアスという言葉で比喩することも可能だが、そういう醒めた客観性は薄く、話に手触りの質感がある。それは南米アルゼンチン映画の特徴のひとつだ。アルゼンチンに現実にあった〈政治〉を素材にして描くとグレーな寒々とした心象光景となってしまう。

 アルゼンチンはエビータこと、エヴァ・ペロンの死後、ながい政治的混乱期に入る。軍事独裁時代がながかった。スペイン語に「デスアパレシード」という言葉がある。直訳すれば「行方不明者」だが、「政治的に抹殺された死者」という意味ももつ。長い軍事独裁下で多くの民衆が「デスアパレシード」になった。日系人の犠牲者もいる。その軍事独裁政権が崩壊するきっかけとなったのが、1982年4月、南大西洋洋上のマルビナス諸島で起きた武力紛争だった。短期間に多くの犠牲者が出た局地戦争だった。
 アルゼンチン独立以来、主権を主張してきた英国が実効支配する諸島にアルゼンチンが主権を主張して軍事侵攻して起きた紛争だ。日本では「フォークランド紛争」としてしられる。本作は、その「紛争」を描いたアルゼンチン映画。敗者となったアルゼンチンの帰還兵の視点から撮られている。酷寒の地で寒さと飢えに苦しみ、痩せた地を這いずりまわる歩兵の視点だ。
 日本では劇場未公開のままDVD化された映画。日本人にとっては遠い国の小さな紛争ということで、すでに現代史の狭間に埋もれてしまっているだろう。劇場公開しても客は呼びこめない、商業的価値の希薄な映画だと・・・しかし、第二次大戦後、いわゆる西側、市場経済を志向する英国とアルゼンチンが戦火を交えた特異な紛争として歴史に残るものだ。

 アルゼンチンの武力で諸島を制圧すると、当時のサッチャー英国政府は、空母2艦、原子力潜水艦を含む本格的な機動艦隊を送り込んだ。装備に誇る英国軍が装備も低劣で士気もあがらないアルゼンチン軍を対して、苦戦する。3ヵ月の戦闘で英国軍は300人近い死者、約800人ほどの負傷者を出し、2隻の駆逐艦、34機の航空機を失うなど大きな損害を蒙った。アルゼンチン軍の死者は約650人、負傷者1000人以上、失った航空機は100機以上だ。
 という戦績をみればアルゼンチンでその紛争を取り上げれば当然、寒々とした挿話の積み重ねるになるのは仕方がないところだ。

 マルビナス紛争の後、アルゼンチン兵士たちは本国に帰還した後、多くの者が戦争後遺症に悩まされる。300人近い帰還兵が自殺した。異様な数だ。ベトナム戦争後、米軍の帰還兵からも多くの自殺者が出ているが「戦争」の規模からすればアルゼンチンの帰還兵の自殺は異様な比率だ。映画も、ふたりの帰還兵の視点から回顧される。ひとりは自殺し、ひとりは自殺した帰還兵の戦友という立場だ。その戦友が語り部となって戦争が回顧される。マルビナスにロケも行なわれ、戦闘の残骸もある戦跡でも撮影されている。
 紛争では当時のハリア戦闘機や原子力潜水艦など最新鋭の兵器が実戦に投入されたが、そうした事実は映画ではニュースフィルムで経過説明の程度にしか語られず、もっぱら極寒の島で身を竦めながら過ごす歩兵に寄り添って語られる。

 マルビナス紛争は、当時のアルゼンチン軍時独裁政権が経済政策の失敗から国民の目をそらすために冒険的に拙速ではじめたものだが、迎え撃つサッチャー英国政府も労働者に過酷な犠牲を強いた構造改革で陰りをみせていた。そういう両国の政治状況のなかで、いわば起死回生の好機とみて巨額の戦費を調達して交戦に入ったわけだ。
 このあたりは名優メリル・ストリープがオスカーを獲得する名演技をみせた映画『マーガレット・サッチャー』(フィリダ・ロイド監督)のなかでも描かれている。
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 『ステイト・オブ・ウォー』のDVDの解説はマルビナスを採用せずフォークランドで統一している。アルゼンチン映画だから、「マルビナス(フォークランド紛争)」ぐらいの表記はしてもらいたかった。スペイン、ポルトガル語圏、つまり中南米諸国ではどの国でもマルビナス紛争が歴史的用語として定着しているのだから。
 アルゼンチン、いや中南米諸国の多くでは、この紛争においてラテンアメリカ諸国の擁護者とみていた米国への不信感を募らせた。米国の主導で創設された米州機構への信頼も急速に冷えた。域内で紛争が起きれば、米国は機構加盟国の立場を擁護することを前提に中南米諸国をまとめたはずだったが、英国に加担した。そういう意味でも同紛争が域内に与えた政治的意味は大きい。また軍事史的にみれば、垂直上昇できる戦闘機ハリアがはじめて実戦の場に登場し、原子力潜水艦(英国)が実戦を交えた等、特筆されるべき戦績を遺すことになった。英国は紛争後、ハリアの生産が加速される。多くの国が購入することを決めたからだ。英国の軍事産業にとって紛争は商業的なデモストレーションの場になったわけだ。
 そして、アルゼンチンの軍事独裁政権は崩壊し、民主化が実現し、エビータも復権した。そして、アルゼンチン国民のなかに根強くあった西欧文化に対する親密感は薄れ、ラテンアメリカにおける民族性を真摯に模索するようになる。
 紛争後、経済の疲弊はつづき、民衆は日々の暮らしに終われ、心に傷を負った兵士たちを忘れた。映画は、そんな兵士たちを復権させる試みともなっている。 (2005年*100分)

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