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映画『フリーダ・カーロの遺品 ~石内都、織るように』

事前のリサーチ不足を露呈している
 映画『フリーダ・カーロの遺品 ~石内都、織るように』 小谷忠典監督
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 この映画を“成功”というなら、フリーダ・カーロ美術館のスタッフがフリーダの遺品、ほとんどが彼女自身が身につけ履き、不自由な身体を支えたコルセットなどの撮影に石内都さんを選定、依頼した時点で決まっていると思う。
 美術館のキューレターはみな女性である。そのスタッフが世界中にアンテナを張り巡らして約1年、石内さんのヒロシマで被爆死した人びとの衣服を撮った連作「ひろしま」の強い印象の故、依頼することになった。
 石内さんは美術館でフリーダの衣服を撮りつづける、約3週間。それの作業を中心にドキュメントした映画だ。その作業そのものが雄弁なエピソードなのだ。それだけで魅せられる。しかし、映画制作のスタッフは語弊があるかも知れないが、付け焼刃的にフリーダの民族衣装の源を求めてメキシコ南部オアハカの太平洋沿岸の町フチタンに赴く。そこに住む先住民女性は現在も民族衣装を日常着として過ごしているフォトジェニックな町だ。そこにカメラを持っていけば〈絵〉は撮れてしまう。ちなみにフチタンは榎本殖民団で明治期に入植した日本人の子孫が住んでいる町だが、それは映画とか関係ないので割愛。
 映画だけでなく、あまたの日本人が書く拙速なフリーダ論は、その独創的な衣裳はオアハカ出身で先住民の血をもつ母親との繋がりを求める。しかし、母親とフチタンとはまったく関係ないし、その母親が民族衣装を日常着にしていたわけではない。むしろ嫌悪していたと思う。
 そもそもフリーダと着衣との関係はそれ自体、今日的な言葉でいえばフリーダ一流のインスタレーション。フリーダが生きていた頃、すでに彼女が住む首都圏でメスティーソ(混血)の女性が民族衣装を着ることは珍しかった。彼女自身、それを積極的に選び取るようになったのは壁画画家ディエゴ・リベラと結婚して以降のことだし、一時、離婚した時期にはフリーダはそれを脱いでいる。そして、彼女の絵画の多くが夫ディエゴに訴える内定告発だった。ディエゴなしでは成立しなかった世界だ。フリーダの作品の大半は肖像画である。そして、そこには必ず眼力の強い両目が描かれる。それはディエゴを見つめる目なのだ。ディエゴに問いかける視線なのだ。
 メキシコに7年暮らし、フリーダの住まいだった美術館と同じ区内に住んでいた筆者からすれば、彼女の芸術はひとつの強固な独創であることに相違ないが、ディエゴなくしては絶対に成立することも、存在しないものであることは皮膚感覚として分かる。美術館と同じ区内にディエゴが私財を投じて建てた先住民遺物を蒐集した大きな博物館がある。フリーダの衣裳はディエゴの火照りなのだ。ディエゴ自身もそれを良く知っていて、死後、フリーダのそうした衣裳の類いを遺言で封印したのだ。衣裳に附着しているはずのふたりの関係性の密度が薄れ、時の濾過を経るまで公開を禁じたのだ。それは58年の歳月に及んだ。
 だから、石内さんの作業は時の濾過を経て、フリーダの〈個〉のみが残った、それを抽出する作業であったのだ。故に、カメラは石内さんの作業を見つめればいいのだ。それは真摯な対話劇であり、映画スタッフが取材して挿入したシーンはおのずと、その対話劇への批評になってしまうので、それは慎重に排除すべきだったし、前に書いたようにフチタンの取材などは内的必然を欠いている。
 石内さんは衣服の綻び、修繕跡、皺、小児麻痺の後遺症で左右の足の長さが違ったフリーダがそれを隠すために行った痕跡などを対話しつづける。その成果はやがてフリーダを媒体とした新しいアートとしての写真として結実し賞賛された。
 カメラは石内さんにより執着すべきだったと思う。撮影のあいまに取材できるほどフリーダの振幅は小さくない。どうせ撮るなら、ディエゴが描いたフリーダの姿を紹介し、その民族衣装を撮る石内さんの作業と融合させるという手法であったろう。事前のリサーチ不足がこれほど露呈しているドキュメントも珍しい。 上野清士

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