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映画『クララ・シューマン~愛の協奏曲』

映画『クララ・シューマン~愛の協奏曲』
 ヘルマ・サンダース=ブラームス監督

クララ
 ブラームス監督が描く女性はいつも毅然としている。その立ち姿は美しい。
 寡作ということもあるがブラームス監督の長編は日本でもすべて公開されている。処女作『ドイツ・青ざめた母』(1980)はすでに熟達の領域に達する完成度をもっていると思った。そこには現代史に切り込む鋭い批評性もあった。正直、感服した。ソ連軍のベルリン侵攻によってナチ・ドイツは崩壊する。戦火で荒廃した町のなかで多発したソ連軍兵によるドイツ女性への暴行を告発しながら、敗残の地にプライドを捨てず、したたかに生きぬく女性像を描いて重い感銘を与えた。
 大戦前のドイツは映画大国であった。ナチ時代にもレニ・リーフェンシュタールはナチ党大会やベルリン五輪を独自の様式美で造型し一篇の叙事詩とし世界を瞠目させた。しかし、映画人の最良がナチズムと親密であったため、敗戦はそのまま映画界そのものも〈無抵抗降伏〉状態となって、映画人の「最良」の部分は失意のなかで生気すら奪われた。それを再生する試みは苦難の道だった。
 評者は『青ざめた母』をドイツ映画の最良の復興、その狼煙と受け取った。2作目の『エミリーの未来』(1984)もまた母親と女優という狭間でいきる〈女〉を描き、ブラームス監督自身が投影されている作品と受け取った。自己実現を目指す〈女〉は、子を慈しんでも道は誤ってならない、と訴えていたように思う。静かな家庭劇の枠組みのなかで、強い主張をもった作品だった。本作もまた監督が敷設してきた軌道からいささかも逸れていない。
 評者の世代におけるクララ・シューマンの映画といえば全盛期のナスターシャ・キンスキーが演じた『哀愁のトロイメライ』(1985)である。ペーター・シャモニという男性監督が撮ったもので、ピアノの神童として欧州各地を演奏する少女クララから、愛に目覚める思春期、そしてロベルト・シューマン(パスカル・グレゴリー)との結婚までを描いた青春物語だった。結婚によってクララの名声は一時棚上げされる。クララは夫シューマンの成功に賭ける女性として描かれていた。いま、ブラームス監督の新作を見終えた時、キンスキー=クララは男性監督の偏愛的な理想像としての〈女〉ではなかったかと思えてくる。
 ブラームス監督のクララはまず力強いピアニストとして登場し、家事・育児も怠りない母親像と描かれ、さらに精神的病いに侵された夫ロベルトを看護する献身性も強調されていた。病いに侵されたロベルトの姿は見苦しい。父親として家庭人として家計を支える男のプライドが病魔と戦わせているが、敗残の色濃い壮年として描かれる。そんな夫を慰撫しながら交響曲を完成させるクララの姿は美しい。そんなクララの姿に感銘を受け、密かに恋心を寄せるのが新進の作曲家ブラームス。この辺りは実話と創作が調和して巧みな作劇となっている。
 クララを演じるのは美少女の面影を残す成熟した女性といった感じのマルティナ・ゲデック。ブラームス監督の意を挺して、男社会の音楽界のなかで毅然とわが道を拓いてきた強靭な精神力をもちながらも、若きブラームス(マリック・ジディ)の求愛にとまどう〈女〉の揺れを見事に演じている。晩年のロベルトは第3交響曲「ライン」を最後にみるべき作品を遺すことなく死にいたる。その「ライン」創作エピソードはそのまま二人の個性を浮彫りさせるドラマとして描かれる。そのシナリオは見事だ。
 クララもひとつのピアノ協奏曲と多くのピアノ小曲や声楽曲を創作した。しかし、クララの映画であっても監督はプライベートの場面でしかそれを流さない。聴衆はクララのピアノは聴いても、それはロベルト・シューマンの作品なのだ。音楽史におけるクララの位置はまずピアニストでありシューマンの妻である。クララを主役にしながらも音楽そのものはロベルト・シューマンを畏敬する。ピアニストとしてのクララの力量と〈女〉の美質を賞賛しつつも、ロベルト・シューマンは類い稀な芸術家であったという監督の審美眼にブレはない。秀作である。 

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