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ラグタイムとショパン

ラグタイムとショパン 
 ジョプリン

 昨夜もショパンを聴いてきた。
 アレクセイ・ゴルラッチ、ウクライナはキエフ出身の22歳のショパン。剛毅かつ自由奔放なショパンだった。“憂国の士”でもあったショパンの憤激というものを聴かされた感じだ。

 今年(2012)は“ピアノの詩人”フレデリック・ショパンの生誕200周年ということで年初から全国各地のホールの壁にショパンのポロネーズやマズルカが染み込むぐらい果断なく演奏された。たぶんクリスマス前後にもう一度、ショパンを聴く。ショパンに始まり、そして終わるのが私の2010年のコンサート行脚である。
 というわけで今年はショパンの生涯、音楽について考えることがやたら多かった。CDも聴きくらべ、あらためてウラディーミル・アシュケナージの解釈に共感をおぼえたことを記しておこう。そのアシュケナージのショパンはソヴィエトを去り、亡命してから録音されたものだった。亡命と同時に、クレムリンは彼の国内における輝かしい公式記録いっさいを抹殺する。そんなピアニストに、ショパンの望郷を重ねるのは安易かもしれない。アシュケナージという姓はなんと彼を象徴していることだろう。ディアスポラのユダヤ人、なかでも東ヨーロッパに定住した人たち、その子孫を意味する言葉でもあるからだ。
 しかし、アシュケナージのピアノにはそうした個人的事情を超越する普遍的な深さがあった。憂愁は思索となって政治の鎖は溶解する。それはロシア革命直後に亡国の人となって創作の泉を荒れさせたラフマニノフの憂愁とは別のものだった。近年、指揮者としての表現活動に傾注しているアシュケナージであることが、彼のピアノのファンとしては少し残念が気がする。

 そんなことをつらつら想いだしている時、ふとした狭間を縫ってラグタイムの軽快な音色が聴こえてきた。
 むろんスコット・ジョップリンのアップライトのピアノだ。1868年、米国テキサス州の農園に繋ぎとめられた奴隷農夫の子として生まれた刻苦の作曲家。10代から酒場で、酔客の心もとないダンスを活気づける職人として稼ぎはじめた。でも、そんな場末のピアノ弾きで終わろうとは思っていない。野心は青年のものだ。本格的に音楽を勉強したいと20代の半ばに黒人専門の大学の門を叩く。そこでショパンと出会っている。むろん、モーツァルトもバッハも知り、学んだ。
 おそらく、ジョップリンは、ショパンの憂愁を、己の体内に宿る血と共鳴させながら、よく表現しえた音楽家だと思う。彼は祖先の地も知らない。奴隷商人によって、家系は歴史の闇に掻き消された。その哀しみを、創作の手段をもった才能がどこかに痕跡を留めようとするのは当然だろう。彼にとって、ピアノは生き延びる手段だったが、それをただの道具にはしなかった。天賦の才能は、やがて時代を先取りするラグタイムを次々と書き一世を風靡する。

 ラグタイムは、シンコペーションと呼ばれるリズム構成の面白さにある。ミニマム形式のなかに私はふと西アフリカの太鼓のリズムを連想する。ラテンアメリカのリズムの豊かさは西アフリカに起源をもつといわれるが、ラグタイムもそうしたリズムの援用だと思う。けれどたくさん書かれたラグタイムのなかで、彼の作品が依然、聴かれているのは、ある種の憂愁だと思う。
 ジョップリンがいくらショパンやモーツァルトを時代の感性に沿って弾いたところで、白人は黙殺した。黒人音楽家の活動の場は限られていた。しかし、ジョップリンにはピアニストとして、作曲家としての自負があった。オペラも書き上演の機会に恵まれた最初の黒人作曲家でもあった。しかし、彼の皮膚は黒かった。
 ……そう聴こえるのだ。彼のラグタイムには当時の最良の黒人演奏家たちのいらだちと悲哀が。リズムの虚飾の内に、その奥深いところに憂愁が潜んでいる。彼ほど安酒場で貧しい者たちの悲哀を若くしてみてきた音楽家は珍しい。彼は貧しさゆえ、黒人なるがゆえの苦悩と貧困を知り尽くしている。

 昔、『ラグタイム』という映画があった。後に、『アマデウス』でモーツァルトとサリエリを描いたミロシュ・フォアマンが監督した秀作だ。彼もまた1968年の、“プラハの春”の民主化運動がソ連の戦車によって圧殺されたのをきっかけとして米国に亡命した才能だった。『ラグタイム』はジョップリンを主人公にしたものではなかったが、ラグタイムの弾くのはジョップリンであった。記憶が正しければ、ジョップリンも助演級の役柄を得て登場し、バッハ? モーツァルト? を弾く場面があった。しかし、その卓抜なパッセージも自重され、ラグタイムのシンコペーションに切り替わるのだった。ショパンも弾いたはずだ。 (2010年12月記)

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