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バルトーク・ベラの晩年  ~没後70周年を迎え

バルトーク・ベラの晩年  ~没後70周年を迎え
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 2年前の3月下旬、季節外れの大雪に見舞われたブタペストに滞在していた。
 投宿したホテルの近くに、ネオルネサンス様式のブラペスト歌劇場の威容があった。ドナウ河両岸の観光スポットに向かう道すがら歌劇場の前を幾度も行きつ戻りつした。シーズンオフの劇場は重い扉に閉ざされたままだ。その扉の横に劇場内を見学できる小さな扉があって、スーベニールのお店に直面するという配置だ。
 歴史を刻みこむ重々しい回廊の奥からバルトーク・ベラの音は立ち上ってこない。耳を澄ませば、リストのピアノ、マーラーの歌曲が聴こえてくるような気配はあるけれど、バルトークはそこにない。彼の盟友ゾルタン・コダイの音も存在しない。バルトークの歌劇『青髭公の城』の初演の場であったと知っても、劇場ファサードの扉はバルトークを閉ざすばかりだ。

 バルトークの音楽は劇場の近くを流れるドナウ河が市街地に入る手前の村落、流れる先の肥沃な大地で民衆が育てた民俗音楽の泉から水を引き滋養としたものだ。そう、それに間違いないのだが、バルトークがマジャールの自然に分け入り採譜の旅に汗を流す前に、ポルトガルの旅の途上、ジブラタル海峡を越えてアフリカに渡り濃密なアラビア音楽の音色に浸っている。
 バルトークはその音楽に魅了される。おそらくウードを中心にしたマグレブのアンサンブルだろう。そして一日5回、中空を流れるアザーンの祈りの旋律にも耳を澄ましたことだろ。
 西欧のアカデミズムが育てた音楽とまったく異質な響きとリズムに霊感を与えられたということだ。
 バルトークは後年、回顧する。
 「私はかつて知ることのなかった生命の燃焼による昂揚感に充たされると、広く散逸し、当時何の脈絡もないように見えていた土着の歌を関連づけて編み上げた音楽分布図を、さまざまに思い描いていたのだ」(*)
 
 
 ハンガリー民謡の採譜がバルトーク芸術の母胎、温床、という形容は繰り返しきかされてきたものだが、作曲家をしてそれを駆り立てる動機を与えたのが北アフリカの大地にあったことは不勉強かも知れないが、見落としてきた。バルトークは最初の短いアフリカ行の後、再度、旅装を整え採譜して回るのだ。
 バルトークの盟友コダイは、ハンガリーの土俗音楽の蒐集に充足したが、バルトークは違った。最初から国境を越える好奇心の赴くままに歩を進めた。ハンガリーをベースキャンプに国境をまたぐ。

 そんな作曲家が死んで70年を迎えた今年、各地の演奏会場で例年になくプログラムにのることになった。けれどバルトーク・プロだけの演奏会はない。モーツァルトやショパンのようには客が呼べないという実益性からだろう。
 しかし、晩年の傑作であり難曲の『管弦楽のための協奏曲』の演奏回数が目立つ。しかもアマチュアのオケが取り上げているのが目立つ。日本の音楽レベルは高い。アマでも難曲に挑戦する力がある。

 バルトークの最晩年は米国ニューヨークにあり、そこで客死した。
 遺言でソ連の影響下にあるような祖国に埋葬されたくないと記した。『管弦楽のための協奏曲』の一部にソ連のショスタコーヴッチの交響曲『レニングラード』の一節が批判的、いや揶揄的に登場する。そのスコアは瑕疵(かし)だ。芸術音楽としてみれば不用だが、作曲家の民族性、反骨がそれを記した。20世紀前半、国際政治に翻弄された小国に生きた芸術家の苦悩が没後70周年の今年、蘇生するのだった。 

 バルトークが米国に事実上、亡命生活を求めた際、携行したトランクのひとつが紛失した。そのなかに、バルトーク自身が採譜した膨大なルーマニア民謡のコレクション、手稿が失われた。しかし、多くのトランクの一つにもルーマニア民謡のコレクションがあったらしく、それの研究を米国ではじめている。もともと、米国でのあらたな生活を決意させた要因のひとつに、ハーバード大学で収蔵され、適任者がいないまま放置されていた中部ヨーロッパの民族音楽コレクションをコロンビア大学に貸し出し、そのコロンビア大学からの研究費用をバルトークの生活に役立てるという具体案があったことだ。
 バルトークは民族音楽にはじまり、終わった特異な作曲家であった。
  *アガサ・ファルセット著『バルトーク晩年の悲劇』(野水瑞穂・訳/みすず書房刊・1973)

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