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花もつ女たち №56 ラグーザ玉(画家。日本/イタリア 1861~1939)

花もつ女たち №56 ラグーザ玉(画家。日本/イタリア 1861~1939)
  明治初期の女性洋画家
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 明治の黎明期、幾人かの女性画家たち(正確にいえばプロの画家を目指して)が海外に出ている。
 渡航事情はそれぞれ個別だ。自由に渡航できる時代ではなかった。政府派遣の留学とか、富裕層からの資金援助でもない限り絶対に不可能だ。玉は、伴侶の帰国ということでイタリアに渡った。稀有な例だ。

 明治政府は西欧の先進技術、文化を学ぶために限られた予算のなかから先行投資として外国人を多方面に雇用した。その才能は玉石混交といったところだが、明治の日本に大きな影響を与えたことは疑いない。ゆえに学校教科書で必ず学ぶ必携事項となっている。玉は、そのお雇外国人のひとりに見初められ、結婚し、任期が満了した際、日本を旅立ったのだ。夫の名をヴィンチェンツォ・ラグーザという。近代日本の彫刻界に大きな足跡を残した教師である。
 ラグーザは工部美術学校で教鞭をとるかたわら精力的に創作活動をつづけ、東京市井の民衆を写実的な作品を実作して、若い日本の彫刻家志望者たちに大きな影響を与えた。

 玉は12歳にして日本画家として立とうと思っていたようで、永寿なる雅号をもった。16歳で工部美術学校に入学したのも新しい時代の絵画を模索する流れから生じた。その意味では時代を先駆ける新時代の女性といえようか。しかし、そこでは日本画は教授されない。洋画を学ぶことになる。玉にとっては絵画芸術におけるコペルニクス的転換がそこで起きただろうし、私的な生活にも大変化が生じる。ラグーザと出合い、恋をしたからだ。

 ラグーザに、17歳の玉を写実した『清原玉女像』という作品がある。その絵の制作が恋の芽生えか、それとも恋愛の最中での創作であったものか、それはわからない。けれど、取り立てて言うほどの作品ではないが、近代日本美術史としての重要な資料となった。芸術的な価値ではなく、あくまで資料的な意味でだ。当時、ロシアに渡って聖像画(イコン)を学んだ山下りんの絵もまた資料としての価値だ。そういう時代だった。
 玉の肖像を描いた2年後、ラグーザは玉を娶る。玉19歳、ラグーザ39歳、20の年の差を克服しての結婚だ。そして、無事、東京での任期を終えたラグーザに伴われてイタリアに渡る。といってローマやミラノといった都会ではなく、ラグーザの故郷はシリリア島であった。以後、51年間、玉は日本とほぼ完全に関係を絶ってしまう。

 晩年、ラグーザの死後、帰国する。1933年のことだ。その年、東京で、イタリアで描いた作品を中心に小規模な個展を開いたようだ。生前の玉にとって最初の、そして最後の個展だ。しかし、時の画壇に影響を与えることもなく、ただ稀有な半生を生きた女性として社会的な注目を引いただけのようだ。世はダダイズム、未来派、表現主義といった前衛が闊歩している時代だった。玉の絵は丁寧な仕事だが古すぎた。イタリアのパルレモ大学で勉強しなおしたというが、アカデミックな教育しか受けていなかったようだし、それ以上、時代の潮流に連帯するような感性とは無縁だったようだ。

 玉の本格的な回顧展は没後約50年を経た1987年まで待たなければならなかった。
 当時、夥しい美術展が各地で開かれており、特にデパートは客寄せも兼ね、次から次へと企画を練っていた。そうしたなかで玉の回顧展も開かれたのだ。現在のように東京でもデパートが次々と閉店し、営業を持続しているところでも大きな美術展を開催するところは少なくなった。
 その回顧展では初期の日本画から帰国後のスケッチまで含み、滞欧期の油彩画を中心に約90点が集められた。ここではじめて日本で最初の女流洋画家といわれた玉の仕事の全貌が明らかになったが、資料的な価値以上の回顧にはならなかった。結局、イタリアでは夫の庇護の下で暮し、絵で生計を立てるようなことはなかった、という意味では余技であった。

 ひとつだけ気になる作品があった。『姉千代の像』という肖像画。玉がシチリアの教会で結婚式を挙げ、イタリア名エレオノーナ・ラグーザと改名した28歳の作品である。その像は、洋装で描かれている。姉千代は結婚式に参列するために渡欧したのだろうか? 玉にとって滞欧50年間における唯一の肉親との触れない、というだけでなく日本語で会話する最後の機会になったのではないのか? しかし、そんな玉も夫の死後、帰国すると、ふたたびシチリアに戻ることはなかった。なんとなく、玉のラグーザ家での位置が推測できるように思うのは筆者だけだろうか・・・。

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