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かつて「人民寺院」事件というカルト集団の大量自殺があった

かつて「人民寺院」事件というカルト集団の大量自殺があった
 ~映画『サクラメント ~死の楽園』の公開に際して
人民寺院あ

 1978年11月、南米ガイアナという国でその事件があった。37年も前の事件だが、いまでも酸鼻な死臭が甦ってきそうな人間悲劇。当時、大量自殺事件として国際的な耳目を集めった。しかし、いかに巨(おお)きな事件であっても、歳月はその重みを失っていく。私自身、記憶の彼方に追いやっていた。それが1本の映画に接して蘇生した。
 米国南部では現在もさまざまな新興宗教団体が生まれ、そして多くの教団が肥大したり衰退したり、あるいは消滅するといったことが大宇宙の星のように繰り返されている。ジム・ジョーンズという、さしてカリスマ性があるとか思えない男が創始した人民寺院が肥大しつづけ、やがて917人がたった1日間、教祖自身もふくめて大量自殺して消滅した。
 映画『サクラメント』はその大量自殺事件に触発されて制作されたものだ。
 ホラー映画に分類されるのだそうだ。それはないだろう、と言いたい。
 事件は実際にあり、きわめて人間的なものであったのだし、ホラー映画特有のCG技術をほとんど使っていない作品が何故、恐怖・怪奇映画なのか。この映画がまったく人民事件を再考するというような視点がなく、多くの米国人の脳裏に刻み付けられている事件への記憶を呼びさまし興行に結びつけようとした凡作と断じて間違いないだろう。しかし、あの事件はなんだったのか、と私自身は書棚の隅から埃のかぶった1冊の本を引き出させる効用はあった。

 その本の表題は、『自殺信仰』といい、サブタイトルに「『人民寺院」の内幕とガイアナの大虐殺」とある。絶版になって久しいので、おそらく入手は困難だろう。で、この本の内容を語るとともに「人民寺院」の異様さも記すことができそうに思う。
 まず、内容以前に特筆されることがある。大量自殺のあった1978年11月18日、その事件を目撃したジャーナリストの米国帰還から、わずか半月ほどで出版され、翌月には邦訳も刊行されるという異様な早さで読者のもとに届けられたのが本だった。それだけ米国のみならず世界的な関心が事件に注がれていた、といってよいだろう。本書には各国での反応も記録されている。
 事件から速攻というべき早さで原稿がまとめられたのは、それまでの取材の蓄積があったからだ。教祖の生家から幼児期、少年期、そして宗教団体を興こし、なぜ急速に発展したかということも詳細なデータで語られている。教祖がいかに多くの人心を掴む卓越した能力があったか、あるいは蓄財システムの巧妙、マスコミ操作のうまさ、さらに政治的な影響力を醸成する機動力なども解明してみせる。事件が起きる前から「人民寺院」の本部がおかれたサンフランシスコの一部のジャーナリストはさまざまな証言をえてカルト集団の危険性を取り上げていた。しかし、教祖は、そうした批判勢力を弱体化するため信徒を動員し「世論」を形成した。その辺りもよく描かれている。
 教祖は最初の活動の拠点インディアナポリスで人権委員会理事を務め、サンフランシスコでは住宅開発公社理事という公職についていたのだ。いかにマスコミの批判を無力化することに長けていたかがわかる。
 カーター大統領が選出された選挙では信徒を動員して集票活動を組織、大統領就任式に教祖たちは招待されていたのだ。
 映画はそんな教祖のことを何ひとつ語らない。

 南米ガイアナに信徒たちのコロニーを建設し、そこに“ユートピア”を建設しようと考え、実行にうつすわけだが、その計画自体は“本気”であっただろう。しかし、米国で教団の活動に不穏なものがあると報じられるようになると“ユートピア”は逃避地となっていく。そして教祖は、現世での天国が実現しないのであれば、死後の世界にそれを達成しようと信徒たちに指針を与える。そこでは狂気の世界がコロニーを覆う。教祖は独裁者となり、信徒の生殺与奪の権利を行使する。
 やがて、そのコロニーから脱走した信徒によって実態がマスコミに漏れるが、それも黙殺される。しかし、一度、漏れ出した水は元には戻らない。そこにガイアナで射殺されるレオ・ライアン下院議員が登場する。
 多少、有権者向けのジェスチャーもあったといわれるが、米国民主主義の美点と果敢さを体現する議員であることは事実だ。刑務所の実態を探るため自身、服役囚として潜入するということも厭わない議員だった。そんなライアン議員がガイアナに乗り込み自分の目と耳でコロニーに実態を調査することになった。こういう国会議員はわが国では田中正造翁、以降出ていないのでは……。

 教祖ジム・ジョーンズはもはやこれまで、と死にいたる毒薬をあおることを信徒に告げ、多くの信徒が「自らの意思」で教祖に従ったのだ。むろん、逃げ出す信徒、毒薬をあおることを拒否する者もいたが、彼らの大半は射殺された。ライアン議員は、コロニー視察中、米国に戻りたいと嘆願した信徒たちを連れ出す過程で、射殺された。

 本書の巻末に収録されている精神医学者・小田晋の長文の解説も読みごたえがある。
 カルト集団は「人民事件」以後も世界各地に生まれている。排他的な秘密結社の内実を取材するのが至難であり、ときに生命の危険もともなう。実際に「人民寺院」事件では犠牲者が出た。本書は生命を賭して取材されたものだ。その意味でも貴重な仕事であるし、今日の宗教的原理主義の台頭を考察するときの切実な資料価値があると思う。翻って、映画はより真摯に教祖の病理なり、信徒たちのよるべなき心性を抉るべきだった。 
 *マーシャル・キルダブ+ロン・ジェイヴァーズ共著。新庄哲夫・訳。講談社発行。1979年1月刊。映画『サクラメント』の公開は11月28日から。

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