スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

原節子さんの訃報と松竹創業120周年

 原節子さんの訃報と松竹創業120周年

 築地の松竹本社内の試写室にいった。原節子さんの訃報に接してからはじめて築地に行った。
 現在、松竹のマスコミ用試写室は東劇の3階にある。僕が13年、海外に暮らしている間に築地周辺も様変わりして、東劇もビルのワンフロアを占めるという、なんとなくビジネスライクな雰囲気で、わくわく感のない劇場になってしまった。最近は、シネマ歌舞伎、NYメトロポリタン劇場の歌劇ライブ映画の企画で知られる。
 僕が日本を出る前、松竹の試写室は現在の東劇の道路を挟んだ真向かいにあった。往年の映画ファンならシネラマも上映できた松竹セントラルの威容を想いされるだろう。ここでシネラマ版『風と共に去りぬ』などを観ている。その劇場裏側から地下に入ったところに試写室があった。そこで多くの映画をみた。でも、何故か「寅さん」映画をそこで観た記憶しかない。それには理由はあるのだけど、本日の話題ではない。
東京物語

 で、原さんの訃報を知ってからはじめて松竹の試写室に入ってみると、東劇の正面、ビルの3~4階あたりをしめる場所に大看板「松竹120周年祭」があった。それは10月初旬からはじまっている記念イベントの宣伝であった。9月に原さんは亡くなっていたというから、その直後にはじまった記念企画ということになる。
 この大看板は歌舞伎座方面、つまり銀座から築地にむかって歩いてくる人、車中に向かって掲示されているもので、僕はいつもそこに築地警察の前あたりから歩いてくるので気がつかなかったらしい。
 で、あらためて、その看板を観て、原節子さんの松竹における存在感といったものを思い知ることができた。歴代の松竹映画の名シーン16点をコラージュした看板だ。そこに原さんは4作も登場しているのである。そして、その原さんは小津安二郎映画のなかのものだ。松竹宣伝部は原さんの存在は小津映画においてもっとも輝き、小津作品は原さんを得て芸術となったと主張しているようだ。そして、それに間違いないだろう。ついでいえば、男優では笠智衆さんだけが2作の名シーンに登場している。いずれも原さんともに配されている。1本は、原さんの父親役、もう1本は名作『東京物語』義父役である。松竹は小津映画に象徴される、ということがしみじみ納得できる大看板であった。
 
 小津映画も、原節子さんの現役時代に僕は、それを見ていない。小学生から中学生という時代で、当時にみても退屈していたと思う。小津映画に親しく接するようになったのは20代の終りで、現在、銀座プランタンの裏通りあたりにあった銀座並木座で年に2度ほど企画されていた小津映画特集においてだったと思う。その並木座も消えて久しい。確か、雑居ビルの地下にあったはずで、キャパシティの小さなところだった。
 そこで僕は、自己人生のなかではじめて、小津作品を通して、諦観、といったことをしみじみ感得させられていたのだと思う。
 人生、といったことを文字づらではなく、日本人としての生活実感をともなって味えと教えてもらったようにも思う。抽象的な言語が映像を通し、無駄な言葉を配して、染み込んでくるような、そんな感じだ。たとえていうならモーツァルトやバッハの音楽に包まれたとき、言語で解釈することをやめていながら、なお明瞭に感動を意識している自分がいるという、そんな瞬間に出会えるのが小津映画だろう。でも、持続する生活のなかで人はじたばたとぶざまなに動きつづける。解決などしないし、諦観することも至難だ。でも、ふと何かに立ち戻りたいとき、ふと小津映画をみようか、という気になる。小津映画が各地で再映され、特集企画が繰り返し企画されているのは、たぶん日本人の生き方は、といった永遠の命題に対する何かを小津映画に見たいからではないのか。そして、小津監督自身、最後まで模索していたのだ。
 そして、小津監督の葬儀への弔問を最後に公の場から姿を消し、半世紀以上、私生活をまったくのぞかせなかった原節子さんの身の処し方に、僕などは日本人の美しさを見出すのだ。

 「そんなものだよ」
 「そんなものかぁ」
 「うん、そういうものなんだ」
 「そうなんだ・・・」

 といった台詞があったような、なかったような・・・。でも小津映画では、いつもそんな台詞が重ねられる。
 川端康成の「雪国」でもおなじような台詞が重ねられるところがある。川端はそれを「余情」という言葉で、その会話をうまく英語に訳せない、理解できないというドナルド・キーンに語っている。小津映画にも、その「余情」がある。それを丁重につむぎだしていた。原節子さんの台詞で、笠さんの台詞で・・・。

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

上野清士

Author:上野清士
店長の最新著書

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
カレンダー
04 | 2017/05 | 06
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -
FC2カウンター
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。