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[ライナー・ノーツ] セリア・クルス『魂の贈り物~レガロ・デル・アルマ』 その3

セリア・クルス『魂の贈り物~レガロ・デル・アルマ』 その3

 『魂の贈り物』では、ここ数年の共働者であったセルヒオ・ジョージとオスカル・ゴメスが5曲、半数ずつプロデュースを担当し、セリアの歌を媒体にして実力を競っている。ということでも、この「新作」が、それを言うと辛気臭くなる「遺作」というようなものではなく、セリアが前傾姿勢で取り組んだアルバムであることが了解できる。
 メキシコ及び中米諸国の音楽に長いあいだ肩入れしてきた筆者にとって、エル・ヘネラルが参加した冒頭の曲「エジャ・ティエネ・フエゴ(彼女は火を放つ)を推し出したい。サルサのルベン・ブラデス以来のパナマのビックネームとなったエル・ヘネラルが、スペイン語ラップ(最近ではレゲトンという言葉を当てるようだが)の錬度を熟成させた巧みさでセリアを活気づかせる。カリブのアフロ系音楽において主唱者を活気づかせるための応答部を担当する合唱や助唱者の存在は伝統的に重要な要素である。それはアフリカ西海岸地方の伝統音楽にルーツがある。
 エル・ヘネラル、日本ではまったく無名の存在だが、すでに7~8年前から中米諸国ではフィエスタにおける定番曲となっている「ムエベロ」や、クリスマスソング「ジングルベル」を絶妙なアレンジで聴かせる「ジングルベレレ」、南アフリカのミリアム・マケバの名曲「パタパタ」を換骨奪回した曲など日本でも聴いてもらいたいと思っていたところへ、思いがけず「遺作」の冒頭曲でエル・ヘネラルの存在が日本で知られることになった。
 4曲目の「アイ・ペーナ・ベニータ(ああ、苦しみよ)」も野心作だ。スペインの伝説的な歌手ロラ・フローレスの長女ロリータとの競演で、フラメンコのカンテをたくみに混在させて味わいのある応答歌に仕上げている。厳密にいえばロリータの歌は、フラメンコの土壌を耕したアンダルシア歌謡コプラである。それにセリアが唱和する。フラメンコ・ギターが違和感なく管楽器のきらめきに乗って演奏されている。
 最近のロリータは正直言って、実妹ロサリオの風下に立っている。ロサリオの活躍は目覚しく、2枚のアルバムを連続ヒットさせているばかりか、今夏、日本でも公開されたペドロ・アルモドバル監督の映画『トーク・トゥ・ハート』で女流闘牛士という難役を好演もしている。その妹の活躍に少々、水をあけられている気配だが、ラホ(ひびわれ)、荒く野生的な声の魅力では一枚も二枚もうえのはずだ。ここままで収まらない力を秘めた実力派だ。ゆえのセリアに請われた。セリアに即していえば、コプラ風味はラテン歌謡の重要な構成要素だが、サルサ系歌手が積極的に取り上げることは珍しい。その意味でもセリアの好奇心は最晩年でもいささかも枯れることはなかったということだ。

 筆者はラテン音楽ファンなら誰もしるようなセリアの履歴を追う記述は抑えたつもりだ。前作、前々作・・・のライナーで書き尽くされているし、「新作」でセリアのファンとなったアナタに、魅力的な『シエンプレ・ビビレ』(2000)、『ラ・ネグラ・ティエネ・トゥンパオ』(2001)を是非、入手して欲しいとの下心もあったからだ。と同時に、真に偉大な歌手は、歌そのものが自立、いや屹立しているものだ。天性、人知れぬ努力、それまでの軌跡そのものがすべて呑み込まれているもので、芸そのものをわたしたちは享受すれば良いのだ。スペイン語圏を主要な活動地、あるいは市場としてきたセリアは歌そのもので勝負してきた。キューバ革命後、亡命してあらたな地で再出発した歌手は他にも大勢いる。苦難は黙って歌の肥やしにすればよい。セリアを支えてきたラテン圏の市民は、まずなにより彼女の歌そのものを愛しつづけてきた。
 ラテン・グラミー賞を3年連続で受賞しているとか、クリントン前大統領から栄誉賞を授与された、とかいう話題はアルバムのセールスに大した影響を与えない。というより、新聞を購読する余裕のない庶民に愛されつづけてきた、という事実を重視したいのだ。ラテン圏の都市、街角で暮らす無数のストリート・チルドレンたちがセリアの歌、たとえば「ジョ・ビビレ(私は生きてゆく)」を耳にする。
 「いま想い出したよ、あの時、解き放された青空を探していた時、何人の友を失ったか、どれだけ涙を流したことだろう。でも、私は生きてゆく、ふたたびみんなに出会うために」。この歌の「私」は、アタシにもオレにも自在に置き換えられるものだ。
 「遺作」の最終曲、ボーナストラックとして選曲された歌「ジョ・ビビレ」は、生きがたい日常をなんとかやりくりしてゆく庶民のしたたかさを声援し、鼓舞するものだ。明日への希望を失うな、と語りかける『魂の贈り物』そのものである。

 セリア・クルスと、ムチシマス・グラシアス!
 これから、わたしたち自身がAZUCAR! と自ら鼓舞していかねばならない。「ア、スカ~ル!」・・・こんな調子でいいかな、セリアよ。(2003年夏記)

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