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グァテマラ*映画『線路と娼婦とサッカーボール』

線路と娼婦とサッカーボール』
      チェマ・ロドリゲス監督
娼婦の

 中米グァテマラ、1990年代の半ばまで30有余年にわたる内戦をつづけていた小国だ。
 めぐまれた自然、希少種の動植物、地味の豊かな農地、先住民がそれぞれの習俗を守って暮らし、マヤ文明華やかな時代の広壮な神殿都市遺跡が散在する。
 もし、寡頭階級の貪欲、なりあがり軍人たちの暴力、そして多国籍企業の横暴がなく、民主主義が機能し、公教育が整備され識字率が上がれば、この国はいくらでも豊かになれるだろう。6年、この国に暮しての実感である。
 
 貧しい。いま現在、実勢としてもっとも貧困率の高い中米の小国だと思う。政府の発表する統計など、この国ではまったく当てにならない。「統計」とは権力者が恣意的に操作する支配の道具でしかない。
 既得権を放そうとしない寡頭層はいまも民衆を制度的に強いた「創られた無知」につけこみ、イビツなシステムを保持する。その最大の犠牲者は貧しい女性であり、子ども老人たちだ。本作は、この小国の矛盾を最下層の娼婦たちの生活に象徴させた記録映画である。

 カメラは乾き冷徹だ。娼婦に対するヤワな同情、神経質な感傷とは無縁の視覚から日常を切り取っている。
 貧しさには無限大のグラデーションが存在する。それが途上国の実態である。
 〈貧困の文化〉という言葉がある。貧困は特有の文化土壌を醸成することを客観的にルポしたのは、人類学者のオスカー・ルイス。本作は〈貧困の文化〉論に対する雄弁なテキストともなっている。娼婦の〈貧困〉を量化せずに個別性を重視し説得力を持った映画である。
 タイトルの「線路」とは首都の旧市街に終着駅をもったカリブ海と太平洋を縦断する国有鉄道を意味する。この鉄道は筆者がこの国で暮らしはじめた1991年には客車が走っていた。現在は貨物専用になった。内戦で疲弊した経済は客車の整備に手がまわらず老朽化し廃止された。
 一度、客車のなかからスラムの空気をしたたかに吸ったことがある。
 スクリーンは、匂いを出さないが、スラムには独特の饐(す)えた臭気がある。貧困の臭いだ。歩いてスラムに入れば臭いは自然となれる。しかし、走る列車に飛び込んでくる臭気はきつい。映画の娼婦たちは、そんな臭気のなかで日々、客をとりつづけている。そして、客となる男たちも貧しい。このスラムから10分ほど歩けば、そこそこの調度をそろえた小綺麗な娼婦館がある。そこには本作に登場する娼婦より若く綺麗な娼婦がはべっている。さらに、外資系の会社のオフィス、外国公館があつまる治安のよい界隈には、肌の白い、欧州女性の体形をもつ若い娼婦たちがドル紙幣で身体を売っている。
 映画は、最下層の娼婦たちが主人公だから、そこに映し出される光景は貧しくくすんでいる。この国の貧困のドキュメントともなっている。そんな娼婦たちがサッカー・チームを結成した。これはタブーへの挑戦だ。
 たとえば日本で、ソープランド嬢たちがチームを編成し、白昼、現役女子高校生や女性警察官チームと対戦することなど考えられないだろう。まがりなりにも、それが実現するのはラテン的風土の寛容性である。しかし、同時に濃密なカトリック倫理観に支配された保守層は、娼婦たちのチームそのものを否定、いや唾棄する。グランドで娼婦たちが転び怪我をし、血が吹き出て、「(健全な)な女性に附着したらどうする」とエイズに対する無理解も出てくる。そんな環境のなかで娼婦チームは国内各地を転戦し、カメラの前で問わず語りに身の上を話し、夢が語られてゆく。
 〈賤しい〉仕事であることは娼婦たちも映画の作り手も承知している。居直ったりしない。匿名の〈娼婦〉であることを拒絶し、個性 をもつ女であることを主張することを覚悟したとき、この映画は普遍性を獲得した。
 ロードムービーとしての側面もある。この国に6年暮らした評者には古代マヤのティカル神殿都市、カリブ沿岸のリンビングストンの海、そしてスラムも懐かしく思い出す。映画に登場するすり鉢状の谷間にへばりつくスラムは、国家宮殿やカテドラル(中央大聖堂)が建つ中央広場と指呼の間の距離にある。この国の施政者は風向きでスラムの臭気が流れてくる場で執務している。
  (2007年10月)
*本稿を採録したのは現在、東京・神保町でグァテマラ映画『火の山のマリア』が公開されているからだ。マヤ系カクチケル族の娘マリアは、この国ではいつスラムに沈み、娼婦となるかもしれない位置にいる。この国で最下層の娼婦となっているのは、先住民の衣裳を脱ぎ都市部でいきる娘たちでもある。

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