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原爆慰霊碑前のチェ・ゲバラ 

原爆慰霊碑前のチェ・ゲバラ 
1959 ofrenda hiroshima


 自分でも戸惑っている。広島の『中国新聞』文化欄に寄稿した「写真屋チェ・ゲバラ」に対する反響だ。キューバ革命の牽引者が撮った原爆ドーム写真について書いた。
 メキシコ市でカストロ兄弟と出会った頃、ゲバラは行楽地で客引きする街頭写真屋だった。もちろん、大いなる野心を隠し、生活の資を稼ぐための仮の姿だが、母国アルゼンチンの通信社から、中南米スポーツ競技会の取材を依頼されるほどの実力であった。当時、写真はリアルタイムで送稿できなかったから、競技を写したゲバラの写真はニュースとしての記録性より、肉体が躍動する瞬間を彫塑のように浮き彫りにしたアート性を狙っていたようだ。その数枚は、ベルリン五輪のドキュメントを撮ったレニ・リーフェンシュタールの映画『民族の祭典』の一シーンのように美しい、陰影の鮮やかな芸術写真であった。そんな競技会写真も何枚ものこっている。革命戦争のなかでは所持品リストからカメラは外されたが、腕は鈍らなかった。
 革命達成、そのわずか半年後の59年7月、ゲバラは親善使節団を率いて訪日。その旅で、京阪神地方の工場見学を直前にキャンセルし広島に足を延ばす。公式行事を終えた後、独りか、あるいは随行者があったか、再度、平和公園を訪れ写真を撮る。日本で4本のフィルムを使ったゲバラだった。その一部が2001年、メキシコ市の公共施設での『写真家チェ』展に出品された。中心部からかなり離れた郊外の施設だったが多くの市民が訪れていた。筆者もそのひとりだった。
 中国新聞に拙稿が掲載された直後、同社を定年退職したの元記者H氏から電話が入った。
 「ゲバラ、と呼ばれていなかった」とH氏はまず言う。広島で使節団を取材したのは中国新聞だけだった。H氏にカメラマンが同行した。
 「当時の日本ではゲバラはまったく無名の存在で、私も革命の英雄だなんて知らなかった」
 通訳を介しての取材、H氏には耳慣れないスペイン語の尊称「セニョール」が名前に聞こえていたのかも知れない。
 拙稿には、それこそ44年ぶりに日の目を見た、原爆慰霊碑前のゲバラの写真が使われた。筆者もはじめてみる写真で、拙稿を受け取った編集者がライブラリーで見つけてくれた一点だった。
 筆者は、H氏に訊ねた。
 「広島のゲバラを写した他のカットはあるんですか?」
 「いえ掲載されたアノ写真だけで、私がカメラマンに1枚撮ればいい」と言ったそうだ。
 要するにゲバラ使節団は当時、まったく注目されていない。
 H氏の電話は、「ゲバラの原爆ドーム写真はどのようなものか」という確認がしたいという。理由は?
 「公式行事のなかではゲバラはカメラを手にしなかった」という。そう中国新聞のカメラマンが撮った写真に写るゲバラの手にカメラはなかった。
 7月の日照時間は長い。ゲバラ一行の宿舎は公園に近かった。ゲバラは公式訪問として取材を受けながら平和公園を訪れた後、いったん宿舎に帰り、そして持参した愛用のカメラをもって再度、独りで公園に出かけたのだ。そして、写真を撮った。その数はわからないが、そのなかの一枚が、筆者がメキシコ展でみた「原爆ドーム」写真であった。淡いモノクロームにゲバラの当日の心境が沈静しているような厳かな静寂の満ちた作品だった。この写真と違うカットがあることを最近、知った。原爆ドームを中心にした平和公園全景。右方向に広島球場のナイター照明がみえる。それがもっとも背の高い建造物で、低い山の稜線がぐるりと眺められる。原爆ドームがなければ平凡な田舎町の光景だった。
 ハバナのチェ・ゲバラ中央研究所で刊行された写真集に、その写真があった。
 中国新聞の拙稿を読んだ原爆資料館のスタッフから、
「ゲバラの原爆ドームの写真が手に入らないか」という打診もあった。
 2005年、被爆60周年にあたる。映画『モーターサイクル・ダイアリーズ』の公開を期にはじまったプチ・ゲバラ・ブームの余韻が残るうち、『写真家ゲバラ』展が広島で実現できないかと、筆者はは同紙の主たる読者たる広島市民・県民を刺激するように書いたのだ。それもあっての反響だった。地方紙に国際ニュースや文化関係の記事を配信する共同通信の社内報「編集週報」でも話題になった。
 念ずればなんとかで、ゲバラの母国アルゼンチンに残る写真の版権を持つ在日ドイツ人の存在も知った。
 *『潮』2004年12月号掲載。

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