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映画『ボーダータウン ~報道されない殺人者』グレゴリー・ナバ監督

映画『ボーダータウン ~報道されない殺人者』グレゴリー・ナバ監督
映画 ボーダータウン

 米国の最南端、メキシコ最北端がせめぎ合うところ、そこはボーダー、国境だ。3141キロにおよぶ長大な距離だ。
 ちょっと想像できない距離だと思うが、日本列島をまず思い浮かべていただきたい。北海道の北の端・稚内から直線距離で確か台湾に届く、いや縦断してしまう距離であったと思う。そして、そこは世界最大の富裕国USAと、一握りのとてつもない資産家と膨大な数の貧困者が住むメキシコが接する場所である。経済的矛盾が牙をむき出して拮抗している場所だ。
 映画はその経済格差が生み出したマキラドーラの工場ではたらく未熟練の低賃金労働の女工さんたちを襲う惨劇が主題だ。マキラドーラとは労働現場の治外法権、メキシコであってメキシコの国内法が発動されない地帯といえる。だから、経営者側はいってみれば、やりたい放題となる。
 資本は米国や西欧諸国、そして日本や韓国など先進諸国の大企業だが、労働力はメキシコの廉価であり余っている地方出の若い労働者。国境の南側に立ち並ぶ工場では家電製品が生産され米国で大量消費される。米国の快適な暮らしを演出する電化製品は、劣悪な労働現場で生産されているものだ。
 まず、労働組合もなれけば社会保障も完備しているとはいいがたい。雇用側は労働者を使い捨てとしか思っていない……というブラックな部分はこの映画では真正面から扱われていないが示唆はされている。雇用側は女工さんをロボットより使い勝手の良い“機械”としてしかみていなのではないか。つまり彼女たちの生命を軽視される。
 そんな労働風土のなかで連続して起きているのが、女工さんたちを標的としたレイプ殺害事件だ。
 メキシコ側のフォレスで頻発し、その犠牲者はメキシコ警察の発表では約500件。それだけでもすさまじい数だが、警察当局の意識的怠慢は憎むべき犯罪を放置していると言わざる得ない。犠牲者の実数は闇に葬られ、人権組織などによれば5000件を超えるというのである。警察が認めた数の10倍であり、いまも犯罪は消えていない。
 この事件の真相をレポートしようと米国からやってくるローレン(ジェニファー・ロペス)と、地元で事件を追う新聞記者ディアス(アントニオ・バンデラス)に、レイプされ九死に一生を得たメキシコ・オアハカ州出身の若い先住民女性エバ(マヤ・サパタ)が絡んで犯人たちを追及・告発するというサスペンス仕立ての映画だが、硬派のナヴァ監督の意図は社会告発であることは明白だ。南北の経済格差であり、資本の悪辣というものだろう。デビュー作の『エル・ノルテ』以来、『ラ・ファミリア』、『セレナ』とラテンアメリカ諸国の移民・難民、経済問題を米国ヒスパニック社会のなかから発信しつづけたナバ監督がマキラドーラを背景とする一連の殺人事件に無関心でいられなかったのは当然だろう。
 また、本誌の読者ならナヴァ監督がスクリーンを通してチカーノ音楽、さらにラテンアメリカ音楽の現況を伝える役目すら担ってきたことも知るだろう。
 ジェニファー・ロペスが歌手として本格的な活動を展開するきっかけとなったのはテハーノ・ポップスの女王セレーナの悲劇的な生涯を描いた『セレーナ』に主演したことがきっかけだった。彼女は、その前に『ミ・ファミリア』でメキシコ先住民出身の女性役を演じている。本作にもコロンビア出身で、撮影当時、ラテン世界のアイドルのひとりであった人気歌手ファネスが登場し、ヒット曲をマフィアの内輪のパーティーで歌うという場面がある。そのステージをみてエバが狂喜するシーンがあって、それは役というよりマヤ・サパタの感激そのものを刻印しているようで面白かった。

 ジェニファー・ロペスが演じるローレンはメキシコの不法越境者の子という来歴を封印しキャリアを積もうとしているジャーナリストである。そんな彼女が何故、米国でも有数の新聞社に勤めることができたかというディテールは完全に削られている。ナバ映画ではそういうそぎ落としが良くある。そんなローレンは女工のエバと行動をともにするなかで、越境に失敗していれば自分もマキラドーラで働いていたかも知れないし、レイプされ殺される可能性すらあった、と思う。それはすこぶる現実的な想像だ。エバを演じたマヤ・サパタは日本での公開はないが、メキシコではヒットした青春映画などでおなじみの新進女優で、映画は彼女を採用することでメキシコでの注目されることを計算しているだろうし、連続殺人事件への関心を促していることは確かだ。

 ナバ監督は、一連の事件を大局的にマキラドーラの矛盾に満ちた搾取構造に起因すると語っているように思うのだが、ではなぜレイプされ、ときに猟奇的に殺害されるという犯罪の闇は解明されない。メキシコにはこの事件をめぐってさまざまな噂が渦巻いているといってよいだろう。そのなかには惨酷、おぞましいものまである。映画はそれはまったく語っていない。そのおぞましさは今日、メキシコにおける麻薬戦争による犠牲者の姿に通底するものがあるが、いまははっきりと確証があるわけではないので書けない。しかし、メキシコではしきりにうわさされている凄惨きわまりないものなのだ。
 制作前、撮影中にもスタッフは脅迫を受けていたといわれるが、その圧力によって、糾弾の矛先がすこし鈍磨したのかも知れない。 2008/9

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