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映画評『迷子の警察音楽隊』 イスラエルとエジプトが隣国であり、隣人であるという動かしがたい事実

映画評『迷子の警察音楽隊』
     エラン・コリリン監督
迷子の

 「パレスチナ人民」と精神的な連帯を表明している評者にとって、イスラエル映画を前にすると自然と身構えてしまう。イスラエル国内にも父祖の地を取り上げられたパレスチナ民衆に寄り添い、さまざまな活動しているユダヤ人が多いこともしっているし、映画人もいる。パレスチナの民衆とともに、地を這う視点から映画をとっているイスラエル・ユダヤ人の映画監督にインタビューしたこともある。けれど、やはりイスラエル映画のなかに政治的要素が入りこめば検証的視線でみてしまう。それは今後も変わらないだろうし、パレスチナに対する抑圧的な政策がつづく限り、それは不変。だから、イスラエル映画の本作を観る前に、評者の見方はアラブ・イスラム圏の映画を観るときより、かなりハードルが高いはずだ。が、感心した。それは正直に書いておこうと思う。

 人を信じても良いなぁ、とほのぼのと思える佳作だ。
 たとえば、恋人たちの日常に、あるいは夫婦のあいだに小さな亀裂が入ったとき、言葉がうまく繋がらなくなったとき、しばらく映画館の暗がりに座って沈黙し、スクリーンからこぼれてくる「希望」に耳傾けていれば良い。誰だって過ぎこしてきた日々への悔恨はあり傷があるだろう。それに折り合いをつけて過ごしてきたのだし、これからもそうだろう。相手を批判してばかりはいられない。批判する自分もまた傷つく。恋に恋するための映画ばかりがデート向きとは限らない。
 ストーリーはまったく単純。どこかに置き忘れてしまいそうな挿話である。でも、かけがえのない真実。そんな話を34歳のエラン・コリリンが巧みなシナリオに仕上げ、自ら監督第1作として撮り上げた。逸材の発見だ。
 
 1990年代の某年某月没日……エジプトは古(いにしえ)の都アレキサンドリのしがない警察音楽隊の男たち、一行8人。イスラエルのある町に開設されたアラブ文化センターの開所式のセレモニーで演奏をするため招待され、国境の税関を通過した。物語はそこからはじまる。このあたりはエジプトとイスラエルが蜜月状態にあった時代を象徴している。現在は、そんな蜜月も崩壊してしまった。
 音楽隊がセンターからの迎えを待つ、ただひたすら待つ。が誰も来ない。そこで隊長のトゥフィーク(サッソン・ガーベイ)は、「われわれはずっとこうした困難に対して自力で打開してきた」という言葉に、同音楽隊のエジプトでの位置がほのかにわかる。開設された文化センターの規模までなんとなく分かってしまう。そのあたり良く計算されたシナリオだ。
 トゥフィークの滋味のある演技は卓抜。資料を読むとイスラエルにおけるアラブ系男優として名声を獲得している人だという。スターロンの『ランボー3/怒りのアフガン』にも出演しているそうだ。考えてみれば、あの映画はソ連のアフガニスタン侵攻に対して、米国が代理戦のパートナーにタリバンを選び物心両面で支援したことを諸手をあげて認めたハリウッド映画として、まことに貴重な証言であった。それが、やがて「9・11」に反転する。歴史は皮肉だ。
 閑話休題。トゥフィークの苦労はしかし、報われず、まったく違った町にバスで運ばれ、「迷子」になってしまう。その町でしかたなくイスラエル人たちの世話になる。その一夜のなにげない、どこにでもありそうな交流が淡彩で描かれているだけだ。
 トゥフィークは、その町で、離婚してひとり小さな食堂を営む中年女性ディナ(ロニ・エルカベッソ)と近くのしがないレストランで夕食することになる。何気ない会話につむぎだされる、ふたりの過去。しかし、それだけ……ハリウッドやフランス映画のように情熱にまかせて一夜かぎりのベッドをともにするとはならない。静かな、そして平凡な夜が待っているだけ。他の隊員たちもそれぞれ身に応じたすごし方で「迷子」の夜に染まる。
 誰にでも起こりうる日常のなかの陥穽。予期できない人と人の出会いの不思議は、それは天のひそかな配剤かも知れない。しかし、運命的な出会いも、その後に織りなす日々は自己責任である。
 誰だってそうそう誉められた日々を過ごしてきたわけではない。でも、良いではないか。それぞれ、その時、自分は精いっぱいの選択をしてきたのだ、それを悔いてもはじまらない。現にこうして元気な自分がいる。人生万歳! と心のなかで小さな声で叫ぶことができような映画。タイトルを失念しても、心の隅に生きていてくれそうな映画だと思う。   2007年10月記

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