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横井弘三の世界展 ~没後50年“日本のルソー”

横井弘三の世界展
横井弘三

 素朴画家と異端画家は反アカデミズムで共通しているし、基本的に描きたいことを我欲に逆らわずに放出してきた個性をという共通項もある。
 けれど、やはり油と水のようにお互い反目しあう個性でもある。
 異端画家、極端かも知れないが、わかりやすくいえば、たとえば“責め絵”の伊藤晴雨などは夜の絵画で、月光の下で映える絵だが、素朴画家の絵はそうじてあかるい陽光をうけて輝きを増すところがある。それらの絵を展示したギャラリーの様相もまた違う。晴雨の絵を並べたギャラリーは陰鬱な沈黙が支配するだろうし、観者たちの表情も硬くなっているだろう。異端画家が不遇のうちに死去したとしても安易な同情の念は生じないが、素朴画家だとおおいなる感傷の涙を誘うかもしれない。
 素朴画家の回顧展にはほのぼのとした華やぎに満たされる。言葉がそこにながれていなくても暖かな雰囲気にみたされているはずだ。下手だけど味わいがあるね、と批評も穏やかになる。異端の画家の筆は総じてシャープだが、素朴 画家たちのそれは穏やかだ。横山弘三の世界はむろん後者のものである。

 横山の創造世界は誰にでも、「ほら、こんなふうに自由自在に描きたいことを描けばいいんですよ。何かなやみでもあればクレヨンでおおきな紙にぶつけてしまいなさい。それで少しは慰安されますよ」と言っているようだ。
 しかし、横山の絵の「素朴」はなかなか技巧的だ。曲者である。いっけん、無造作に描いたような雲のたなびきも工夫のある、作為的な記号だ。天女の衣の襞も風を受けて意志持つ躍動性があるし、晩年、執着した焼き絵では焼き付ける木材それぞれの材質を見極めての色合いを計算している。だいたい、素朴画家というものは文字による自己表現を多くしない。けれど、横井は素朴画家としては多弁だし、自己主張もつよい。
 1915年(大正4)、25歳の頃、第2回二科展に出品、有望な新人に与えられる樗牛賞を受賞などして、それなりの評価を得ている。ただし、当時の洋画画壇というのは無論、今日ほどの力はないし、市場価値も小さい。在野の二科展が世間の話題になることすら少なかったし、それは洋画界という狭い世界の出来事でしかない。そんな時代の二科展で有望新人と推奨されたところで生活の糧とはなりえない。けれど若い横井には自信になっただろうし、創作も昂揚感にみたされていっただろう。
 横井は二科展の姿勢にあきたらず、自ら誰でも自由に出品できるアンデパンダン展を組織、趣意書とかポスターを描くなどして実現する。それは意思的で活動的なオルガナイザー横井の批評精神である。けっして脱俗の素朴画家の姿勢でありえない。戦前戦中の昭和期の横井の画業は、タブローに表出される“素朴”さとは裏腹に世評を求める世俗の画家であった。絵の素朴さ加減と心根が相反しているところがある。本当の素朴画家というのはそれが合体している。
 戦争が激化していくなかで生まれ故郷の長野に疎開する。そして、そこが活動拠点となる。東京から離れたことによって、はじめて素朴画家へと助走しはじめたのではないか。結局、横井画の本領はその時代からはじまるのだろう。
 すでに画壇での名声も、物質的な豊かさももとめなくなった横井は、故郷のあたたかな掌(たなごころ)のなかで自由で精力的な創作活動に展開する。その長野での生活、つまり支援者に目に映った横井の姿は脱俗的と映り、それが横井の代名詞となっていったのだろう。
 しかし、晩年の横井の絵にもやっぱり、その背筋には一本、つよい批評精神が通っている。それを見逃すとまま“日本のルソー”などの形容詞を鵜呑みして、横井の本質がみえてこないと思う。ルソーとはフランスのアンリ・ルソーのことだが、そのルソー自身、自分は素朴画家とは全然、思っていなかった。正当なアカデミズムの画家と確信していたのである。しかし、ルソーはその格差を意識していない。けれど、横井は文字や言葉で残していないのかもしれないが、素朴な絵となっても自分の絵が素朴画などとは思っていなかったと思う。自己表現の発露として、そういう絵になったということではないか。
 だいたい、集客を念頭に美術展はかならずコピー的なサブタイトルを求める。本展の「日本のルソー」もその類いだ。
 没後50年を記念する充実した回顧展を通覧しての率直な感想である。
 *6月4日、東京・練馬区立美術館で。

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