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映画「トランボ」 ジェイ・ローチ監督

映画「トランボ」 ジェイ・ローチ監督
            *7月下旬、公開。
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 筆者にとってトランボことダルトン・トランボの名は、彼が1939年に発表した小説「ジョニーは銃を取った」の原作者であり、1971年、ベトナム戦争の最中に唯一の監督作品となった『ジョニーは戦場へ行った』(邦題)を撮ったハリウッドの良心として記憶される。
 四肢はおろか姓名すら一個の爆弾で失った若き負傷兵の物語は、第二次大戦直前に準備され、米国政府が当時、志願兵募集のキャッチフレーズとしていた「ジョニーよ銃を取れ」に対する反論として書かれ刊行された。そのためトランボは当局のブラックリストに載せられ、小説も発禁にされた。トランボの名作は、ドイツの反戦文学の古典的名作「西部戦線異常なし」の米国版といってよい。
 そうしたトランボの政治的姿勢は、大戦直後のいわゆる「赤狩り」のなかで筆頭に指弾されることになる。そして不当に逮捕され、禁固刑の実刑を受ける。釈放後も、その思想信条をいささかも曲げず、ジョン・ウェインらに代表される右派と対峙、ハリウッドの良心として筋を通した才能だ。

 むろん本人は米国の民主主義を守護する愛国者として行動しているのだが、「反米主義者」との汚名をあびせられ、仕事も奪われる。しかし、食うために働かなければならない、才能を安売りしてB級映画の脚本も手がける時代もあったし、匿名で多くの名作の原案・脚本を書きつづけた。ちなみにその作品名をあげると、オードリー・ヘップバーン主演『ローマの休日』、カーク・ダグラス主演『スパルタカス』他、『脱獄』『パピヨン』など数多くの名作、ヒット作が並ぶ。
 そんな名脚本家の後半生を描いたのが本作だ。必然、多くの著名人が登場することになる。いや、そうした著名人を描かないと映画にならない。多くの人の「名誉」に関わる題材を扱うということで、ハリウッドの長い歴史のなかでも重要な挿話であったトランボの物語を映画化するのは至難のことと思われてきた。トランボ死後、40年の歳月を待たなければならなかったのは、そうした事情があると思う。

 大戦後の熱い「冷戦」下で起きた「赤狩り」、それはデマゴギーの旗振り役マッカーシー上院議員が煽動したことでマッカーシズムとして知られるが、本作では、そのマッカーシ議員は描かれない。米国を追放されたチャップリンのことも取り上げられていない。しかし、象徴的にソ連のスパイとして告発され、無実の罪で処刑された科学者ローゼンバーク夫妻のことはニュースとして映画として登場する。
 ともかく「赤狩り」の狂熱によって不当に命を奪われた人、職を奪われた人、家族の崩壊、一家離散、亡命などさまざまな悲劇が繰り返された。この渦中にあった著名人の名をあげてゆくだけで数ページになる。
 映画は、この政治的狂熱をトランボという稀有な才能と、その近しい友人、仕事仲間に収斂させて描いた映画だ。その手法はよく理解できる。しかし、トランボの不退転の強さ、その硬軟取り混ぜての抵抗精神を、主演のブライアン・クランストンは表現できたかというと疑問符をつけねばならない。“軟”の傾きが大きいように思ったからだ。それは監督の意図でもあっただろうが、映画に登場し、それなりの役割を担うエドワード・G・ロビンソン役のマイケル・スタールバーク、ジョン・ウェイン役のデヴィッド・ジェームズ・エリオットまでが軽き存在にみえてしまう。
 思想信条の自由という民主主義の根幹に関わる問題をトランボの生き様に托して描こうという前提にあったはずだろう。強いて深刻がるそぶりはないほうがよいし、わざとらしくあざとくもなるだろう。しかし、こういう作劇ではないだろうと思わせる軽さに私は終始、違和感を抱きながらみていた。

 時代のおおきなうねりのなかで転がってしまう、せき止めようのない政治的な粗暴は何時の時代、どこの国でも起こりえる。いま、移民排斥をレイシズムの語調で訴え、特定民族を忌避する大統領候補を本選に送り出した米国から、こうした映画が送られてきたことはすこぶる暗示的ではある。 

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