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水谷川優子と旧ソ連邦圏の現代チェロ曲     ~つづき「水谷川優子の「鏡の中の鏡」

水谷川優子と旧ソ連邦圏の現代チェロ曲
    ~つづき「水谷川優子の「鏡の中の鏡」

 水谷川優子さんの名演「鏡の中の鏡」について若い友人に話をしたら、すぐ「ミヒャエル・エンデ」と関係あるのと返された。なるほど、ドイツの作家にして詩人エンデの作品のほうが日本でははるかに有名であるのは仕方がない。
 エンデがそれを発表したのは1984年で、アルヴォ・ベルトのチェロ曲のそれが書かれたのは1978年だが西側にその名曲の存在がしられるようになったのは1984年に最初の作品集がアルバムになってからで、まったく無関係である。
 多作家ベルトの作品が録音されたのは、50歳を迎えてからで、その発見もソ連の音楽界ではなく西ドイツののコンテポラリー・ジャズに重点をおいたECMであった。
220px-Arvo_Pärt

 水谷川さんのリサイタルではベルトの作品はもう一曲、前半の冒頭に演奏された「フラトレス」があった。旧約聖書の詩篇のひとつに取材した小曲で、「鏡の中の鏡」の前年に書かれている。クレムリンの支配下にあったエストニアにあって、宗教への傾斜を強めた作曲家が官製楽壇から無視されるのは当然だ。ベルトは、西欧音楽の基底をなす古典宗教曲へ回帰してみる必要があると意識的に考えたとき、それはクレムリンの文化政策を否定することでもあったわけだ。
 そうしたベルトの作品を前と後ろにはさんで演奏されたのが起伏の激しいドラマチックなアルフレード・シュニトケの作品「チェロソナタ第1番」。これも初聴の曲でとても読解への糸口に立てない難解さに満ちた作品で、水谷川さんにとってみれば、チェロの現代話法の可能性を色彩豊かに象徴する作品として選曲したものかも知れない。
 Alfred_Schnittke_April_6_1989_Moscow.jpg
このアルフレード・シュニトケ(1934~1998)という作曲家もソ連邦下の西部地域に位置するヴォルガ・ドイツ人自治共和国にユダヤ系ドイツ人として生をうけた。1961年にモスクワ音楽院を卒業、同校で講師を務めるも、数年で辞め、映画音楽などを書いて糊口をしのいでいたらしい。ソ連下の作曲家にとって、この映画音楽を関わると言うことは、とても大きな意味をもつ。
 ロシア革命期、爆発的に革命のBGMとなったロシア・アヴァンギャルドの芸術革命であったが、スターリン独裁の開始とともに逼塞する。多くの芸術家が方向転換するか、政治犯として処刑されるか、シベリア送りとなるか、あるいは亡命するかという弾圧の季節を迎える。その時、少なくない作曲家が自分の良心にしたがって、スターリンの文化政策を甘受する道を断つけれど、映画という表現手段の融合のなかで音楽を書き、効果的音響のなかに実験性を保持したのだった。シュニトケも一時、そうしていた。
 ソ連時代の名匠タルコフスキー監督の映画における音楽はそうした作曲家たちの働きがあったのだ。
 現在、バルト三国ばかりでなく、旧ソ連圏で作品を遺した作曲家の存在が、その豊穣な作品とともにロシアばかりでなく、若い演奏家の手によって蘇生している。
 先年、スペインの若きトランペット奏者のアルバムの解説を書いたとき、数曲、まったく存在を知らなかった小品があって、それらがみな旧ソ連邦に生きた作曲家のものであった。そこで勉強させられたのだが、今後、多くの作品がスラブの大地から発見されてゆくだろういう嬉しい予感が大いにある。水谷川さんの世代がそのレパートリーを拡張していくとき、スラブの大地に鍬を入れてゆくのだろう。

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