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署名アラカルト №15 中村紘子 ピアニスト

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 日本のピアノ演奏の歴史は明治20年代に活動を開始した幸田延からはじまる。作家・幸田露伴の妹だ。ヴァイオリニストでもあった。日本の西欧音楽のプロ演奏家として幸田延は2楽器で劈頭の人だ。
 そして、時代はクラッシック音楽がレコードとステレオの普及にともなって大衆化していく。そんな時代の波にのり、美貌にも恵まれた紘子さんは語弊はあると思うが、ピアニストにおける最初のアイドルとなった。
 そして演奏家として、もっとも多忙であった活動の全盛期、作家の庄司薫さんと結婚した。『赤頭巾ちゃん気をつけて』で芥川賞を受賞した人である(とわざわざ書くのは、庄司氏、中村さんと結婚して間もなく、作家として沈黙しているからだ)。
 写真の署名は、中村さんの2冊目のエッセイ集『チャイコフスキー・コンクール』に記されているもの。コンサートを終え、会場フロアで開かれたサイン会で忙しくなく書かれたような速筆感があるのはやむおえない。で、そのエッセイ集を読んだとき、その達者な文章力、とくにユーモアある観察眼にいたく感心したものだ。刊行年に大宅壮一ノンフィクション賞を受賞するが、当然と思える力量だ。このエッセイ集によってクラッシックファンなら世界三大ピアノコンクールのひとつの内幕を知りうることができたし、この本によってクラッシック音楽の扉を開いた読者も多かったはずだ。
 文章にユーモアがあるのは、これは天賦の才。感傷的に、シニカルに、深刻ぶってかくのは易い。しかし、ユーモア(もちろん品の好い快感)の響きが行間からただよわすことができるのは技術、テクニックでは為せない手技である。こうした才能の持ち主に、だいぶ前に早世されたロシア語通訳者・米原万理さんがいた。活動中の作家・萩野アンナさんもそのひとりだ。
 中村さんがエッセイを書き出した頃、伴侶となった庄司氏の代筆ではないかという声もあった。仲の良いご夫婦なら互いに影響しあうのは当然だし、旦那が作家でなくても、最初の読者に選んだりするのは少しも不自然なことではない。ピアニスト中村紘子しか知りえない芸術・技術上のこと、チャイコフスキー・コンクールの審査員と参加したことで知りうる内幕。中村さんのペンである。
 むしろ、庄司さんは中村さんと結婚して、わが妻の多彩な才能に兜を脱いで休筆し、主夫たることを選びとったのではないか? その庄司さんにみおくられて、26日(7月)中村さんはピアニストとして永遠の巡業の旅へと去った。享年 72歳。

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