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バレエの本 F『ターニング・ポイント』

 『ターニング・ポイント』アーサー・ローレンツ著/小池美佐子・訳。

 筆者がバレエを描いた映画のなかで、もっとも好きで評価するのが『愛と喝采の日々』(ハーバード・ロス監督・1977)。本書はその原作。映画が良ければ原作も良い、とはならないが本書もよくできた小説だ。これはバレエが好きな人には読んで欲しいし、大衆小説の枠組みながら、20世紀のバレエ、帝政ロシアで育まれ、共産ロシアのなかで伝統の強靭さを確立し、以後、世界のクラシック・バレエ界に影響を与えてゆく真実も、女性の自立、生き方を描くという大筋のなかにきちんと捕捉されている小説として広く読まれて欲しい作品だ。

 日本では映画の公開がきっかけで出版されたが、原作も当初から映画化を想定して書かれたようだ。しかし、いわゆるノベライズのお手軽さを超えている。そして、本書を書こうとした作者のなかに1974年に米国に亡命したキーロフ・バレエの人気プリンシパル、ミハイル・バリシニコフの存在を抜きしては語れないと思う。原作でもバリシニコフを思わせる描写があるし、映画化する時期にはロシア語訛りの英語も話せるようになっている本人自身が助演という重要な位置を与えられている。キーロフ仕込のバレエの芸術性と、男優としてドラマを演じるクオリティーの高さでオスカーの助演男優賞に受賞とはならなかったがノミネートされた。
 本筋は中年女性の葛藤劇。かつて結婚でプリンシパルへも道をあきらめたディーディー(シャーリー・マクレーン)、その親友で独身を通していまもステージに立つ大スター、エマ(アン・ヴァンクラフト)。その二人が再会して、それぞれ自分のターニング・ポイントにおける選択は間違っていなかったか、お互いのいまを認めることによって反芻する。自分の来し方の時間に対する慈しみと少しの後悔。原作ではもろんエマが『アンナ・カレーニナ』を踊り19回のカーテンコールをうけるシーンなどがあるが、映画のエマはいっさい劣らない。女優アン・バンクロフトが踊れるわけがないからだ。
 ふたりが“女の道”をわかった1点、それは恋愛を昇華するか諦めるか? あるいは目の前のスターの階段を昇か降りるか、を決めなければならない青春のその時であった。物語はディーディーの視点から描かれるが、映画ではほど対等な配分だ。バレリーナとして自己実現できなかった悔恨を、エマの踊りで見、3人の子どもの母親としてのせわしない充実の日々のなかで、いつのまにか若き日の悔恨を覆ってきた。
 映画ではエマの踊りのシーンを描けない分、バリシニコフのバレエで観客をじゅうぶんに満足させるという仕組みになっているわけだ。小説も映画もディーディーとエマが主役だが、助演陣のリアリティによって映画は成功し、そして本書が邦訳された。
 バリシニコフは本作で踊れる男優として注目され、やがて『ホワイト・ナイツ』で主役となった。そして、目立たない役だが、ロシア革命後、米国に亡命したバレリーナで、やがてバレエ教師として生計を立てたダカロワという老女が登場する。彼女が小説のなかでだが、「クチェシンスカヤですよ。マリンスキー・バレエ団のプリマですよ。ロシア皇帝の愛人になったほどのバレリーナです」と語る。作者は現在の米国のバレエも革命前ロシアの血を受けて育っているものだと語っているわけだ。(サンリオ刊。1978年初版)

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