スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

『新宿インシデント』笑顔を凍りつかせるジャッキー・チェン 

笑顔を凍りつかせるジャッキー・チェン 『新宿インシデント』 イー・トンシン監督

新宿インシデント

 好感のもている男優としてジャッキー・チェンは筆者のなかでいつも5本の指に入っている。しかし、彼の出演する映画は筆者の批評の範囲外にあった。彼の映画はいつも慰安であり気晴らし、揺るぎない娯楽であった。そして、その効用を存分に味わって満喫していたのだ。いわば最初から批評眼をもたずにみれる開放的な映画ばかりだった。娯楽の常道としてのチェン映画であったが、そのうち何時か、恩返しをしないといけないな、と思っていた。本作が正にそれにふさわしいと思った。
 笑わないジャッキー・チェンがそこにいた。苦悩するアンチ・ヒーロー。
 生きることの困難に耐える男に破顔一笑の瞬間はない。ギリギリに追い詰められた男の絶望的な悲哀である。東映仁侠映画の世を拗ねたようなニヒルでもない。
 チェンが演じるのは中国からやってきた不法労働者。10年ほど前、在日の叔母を頼って日本に留学したきりになっている恋人を追って密航してきた。しかし、現実は厳しい。生きるために働かなければならない。密航者ができる仕事は低賃金、かつ人の嫌がる仕事、つまり3Kのみ。負け犬にならないためゴマメの歯軋りのように地を這いつくばって耐える。そんな男の役だ。笑皺は凍りついたままだが、瞳の輝きだけは消すまいとする男でもある。いや、一度だけ笑顔をみせるシーンがあった。気の弱い不法越境の中国人青年のために天津甘栗売りの屋台を仲間で買ってあげて、それを祝う、ささやかな宴で。その笑顔がすごくいい。人生、渡る世間は鬼ばかりだけど、たまにはいいこともある。その少ない機会を素直に祝うとしよう。宴の後は、また厳しい現実が待っている。ならば、いっとき憂さを晴らそう……そういう笑顔だ。その笑顔でこの俳優は、やはりタダ者ではなかったと思わせる。
 チェンは笑顔とともに第一線を張ってきた、という印象が強い。70年代の『酔拳』『蛇拳』以来、近年の『ラッシュアワー』シリーズまで貫くのは笑顔である。
 映画の冒頭は、若狭湾の浜辺。座礁した小さな貨物船から投げ出された中国人密航者たちが浜のそこかしこに群れている。それを俯瞰するシーンは圧巻だ。そのシーンでチェン映画と思って、いつものように肩の力を抜いていた小生をして思わず居住まいをただす効果があった。考えてみれば日本海の浜の向こうには政情も不安定、経済的に困窮する北朝鮮の浜があり、中国やロシアの沿岸部に向いているのだ。北朝鮮当局による拉致事件はこうした浜が舞台だった。
 巡回中の警察官に発見され、越境者たちは身ひとつで散りじりに逃げ出す。大半は拘束され、有り体にいって強制送還となっただろう。チェン演じる鉄頭はなんとか逃げ切り(でないと映画にならない)、東京は大久保あたりの中国人溜まり場にたどり着く。やがて、新宿は歌舞伎町を牛耳るヤクザと渡り合い、中国人マフィアとしてノシ上がってゆく。このあたりは日本のヤクザ映画のノリであり、香港ノアールの安易さも感じさせるが、新宿・大久保、あるいは池袋などにおける中国人たちの進出・浸透ぶりの実態をスケッチしてくれて興味深い。後は見てごろうじろと、このあたりで書き留めるのが〈仁義〉というものだろう。
 在日の不法越境者たちを演じる中国人俳優たちもよく役を理解し、熱演している。とくに女優さんがいい。鉄頭の元恋人演じるシュー・ジンレン、現恋人といった役柄のファン・ビンビンがそれぞれ在日期間の長短を表すように語られるたどたどしい日本語は逸品だ。特に、日本のヤクザ、渡世人の妻という至難の役をこなしたジンレンの演技がいい。東映任侠映画がにわかに復権したような錯覚すら覚えた。
 そして、歌舞伎町の夜の喧騒のなかに挿入される鄙びた中国農村。それは俗性のなかに叙情が入り込むような効果があるのだが、世界の南北格差も象徴する。リリカルでありながら過酷な光景。チェン=鉄頭が身ぐるみ抱え込んでしまった悲哀は、その断絶の激しさであっただろう。 

*2015年3月12日、毎日新聞が、本作「新宿インシデント」がいまだ中国国内での公開ができない現状を嘆くジャッキー・チェンの発言を報道した。
 【北京・工藤哲】香港のアクション俳優で、国政助言機関・中国人民政治協商会議(政協)の委員を務めるジャッキー・チェン=中国名・成龍=さん(60)が11日、北京市内で開かれた政協の小会合で発言を求められ、自らが日本で撮影した映画「新宿インシデント」が中国で公開できなかったことを挙げ、「どんな表現がOKなのかはっきりと法律で示してほしい」と訴えた。世界的に知られたジャッキーさんによる中国当局への率直な苦言は話題を呼びそうだ。
◇日本で撮影した作品公開できず
 白いTシャツにトレーナー姿で会合に臨んだジャッキーさんは、1990年代の中国から日本への密入国者をテーマにし、東京・新宿の歌舞伎町などで撮影し2009年に公開されたこの作品について「出来の良い作品だった。ある政府の役人からは『撮影はまったく問題ない』と言われたが、撮影を終えた後に『(公開は)だめだ』と言われた。結局中国で公開できず数千万元(数億円)損をした」と語った。
 全国人民代表大会(全人代=国会)と並行して北京で開かれている政協は中国共産党と関連組織との協力を目指す組織で、芸能やスポーツ、科学、経済界など幅広い分野で中国が直面する課題について討議・提言している。ジャッキーさんは13年、ノーベル文学賞を受賞した莫言(ばく・げん)さんらとともに政協委員(任期5年)に選ばれた。

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

上野清士

Author:上野清士
店長の最新著書

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
カレンダー
08 | 2017/09 | 10
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
FC2カウンター
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。