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もう一人のマヤ族のマリア  ~映画『ボーダー』のマリアと、『火の山のマリア』

もう一人のマヤ族のマリア
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 グァテマラ映画『火の山のマリア』を観てから、確かマヤ系先住民少女マリアの映画がもう一編あったはずと喉に小骨が引っかかったように気になっていた。その小骨が数ヵ月ぶりに取れた。
 VHSビデオを整理し、すでにDVD化されている映画は処分しようと思いながら、ついでに再見しようとデッキに掛けた旧作にジャック・ニコルソン主演の映画『ボーダー』(トニー・リチャードソン監督)に、そのマリアがいた。
 そのマリアはメキシコの女優本作は1981年制作だから、翌年には劇場で観ているはずだ。ニコルソンの全盛期といって良い時代の作品だが、彼の映画というより、『長距離ランナーの孤独』を撮った英国の名匠が監督した作品として観にいったと思う。ニコルソンが主演した映画のなかではもっとも目立たない社会派アクション映画といえるものだが、英国の労働者階級を見つめ続けてきた監督の視点は米墨国境地帯の矛盾を冷徹に批評している。
 ニコルソンの役は不法越境者を取り締まることを主要目的としている国境警備のしがないポリス。その同僚に名優ハーヴェイ・カイテルが悪徳ポリスを演じている。
 
 前置き長くなった。映画の冒頭がグァテマラの一小村チチカステナンゴの聖トマス教会に入る階段前から始まるのだ。映画は場所を特定していなのでチチカステナンゴであることも、あるいはグァテマラであることも知らずに見過ごされるだろう。カメラは、聖堂のなかまで持ち込まれる。その一角でマリアが祈っているシーンが描かれる。チチカステナンゴはグァテマラ最大の先住民キチェ族の村である。祈るマリアも先住民衣裳ウイピルを着ている。『火の山のマリア』のマリアも終始ウィピルで過ごしている。
 何気ない聖堂内撮影だが、今日ではこんなふうに無遠慮に先住民信徒の祈りを撮影できないと思う。当時、同国は軍事独裁政権下、内戦が展開中の時代であった。政府観光局が先住民の意向などまったく無視して撮影を許可したと思う。
 チチカステナンゴ、そして聖トマス教会のことを知らなくても、アメリカ大陸の古代文化に興味がある人なら、マヤ神話の聖典「ポポロ・ヴフ」が発見された教会といえば、思いあたる読者も多いと思う。この聖典の縁起、教会の悲劇的な来歴については拙著『ラス・カサスへの道』で詳しく書いているので参照されたい。
 『火の山のマリア』も、『ボーダー』のマリアも年齢は不詳だが少女だが母親となっている。現在でもマヤ系先住民女性は早熟だ。15歳で結婚、20歳を迎える前に数人の子持ちという例は普通だ。
 
 聖トマス教会で祈りをあげている最中、大地震が襲う。1976年2月に全土に大きな被害をもたらしたマグニチュード7・5の大地震があたりが映画の背景となっている。地震で2万3千人の犠牲者を出している。そして、この地震によって零細農がほとんどの先住民はさらなる貧困を強いられてゆく。マリアは幼子を抱いて、弟と一緒にグァテマラ国内を流浪、そのシーンでは古都アンティグアの大聖堂、修道院の廃墟など後年、ユネスコの世界遺産となる場所で撮影されている。
 米墨国境まで北上した3人だが米国入りはなかなか成功しない。不法越境してもすぐ国境警察につかまり南に送り返される。そうした日々のなかでニコルソン演じるところのポリスを出会うという設定だ。映画のなかでマリアはすべてスペイン語で通す。英語は話さない。翌年、マリアを演じたエルピディア・カリロはアルゼンチンの娼婦を演じた『愛と名誉のために』では堪能な英語セリフをこなしているので、『ボーダー』ではよりリアリティを重んじて英語セリフを封印したと思う。ニコルソンのポリスとマリアが言葉ではなく心で通じ合うという象徴性を出すには、その方が効果的でもあった。
 この二人の心の交流を通して米墨国境地帯に象徴される南北問題があぶり出されてゆくのが映画『ボーダー』である。
 それ以前も、以後も無数の米墨ボーダー映画がアメリカ、メキシコ双方で制作監督デビュー時代に先祖されていくのだが、映画を通してみているだけで状況は悪化していると言わざる得ない。
 映画『ボーダー』当時、まだ無課税で原材料、機械など無関税で輸入できる保税関税制度で保護されたマキラドーラの工場群はなかったし、そこでの労働問題は少なくとも存在しなかったし、そこで働く女工さんたちは次々と犠牲となっている猟奇的ともいえる殺人事件は発生していなかったし、今日のように激化している麻薬戦争はなかった。映画におけるメキシコ及び中米人の現実はむろん厳しいが、その米墨国境地帯の現実は今日よりまだ牧歌的だと思わざるえない。
 近づく米国大統領選挙、共和党のトランプ候補はこの国境地帯の矛盾をさらに激化させることになるフェンスを築こうとしているのだ。

 『ボーダー』で印象的なマリアの演技で評価を得たエルピディア・カリロは本国メキシコでの活動と平行してハリウッド映画にも恵まれる。そのカリロのことはメキシコ映画もふくめ機会をあらためて書いてみたいと思う。

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