グァテマラ ガビー・モレノの発信力

中米グァテマラ出身で現在、米国ロス・アンジェルスを拠点に活動するガビー・モレノの露出度が最近、目立つ。
米国でジャズ・テイストの独自のポップスを歌いはじめてキャリアをスタートさせたガビーだが、最近はラテン系歌手という出自を明確にし、模索しているように思える。
ガビーについては本欄でも数年前、グァテマラ国歌を高らかに朗唱する実力のある新人歌手と紹介しながら、今後の活動が大いに注目される、と書いた。その予測は当たった。
着実にキャリアを積み上げ、今年9月には6作目となるアルバム「ILUSION」を発表。ディズニー映画の主題歌「エレナ・デ・アバロール」も収録しヒット狙いも感じさせるが、よりラテン嗜好を明確にした作品になっている。「エレナ~」もラテン系歌手にとってはクリスマス商戦も念頭に入れた曲として収録したのだろう。
アルバムは米国とグァテマラ双方のスタジオで録音、ガビー以前、二十年前後、同国のポップス界をひとり牽引してきたリカルド・アルフォナも参加。アルフォナも、ガビーの実力に感服しているようだ。そのアルフォナはガビーと自作「Fuiste tu feat」で見事なラブバラードをデュエットしている。そのビデオ・クリップはムイ・グァテマラテコといった感じのイメージにあふれ、それ自体、一級のグァテマラ観光ガイドともなっている作品だった。二人の思いが合致したところで生まれたハートフルな映像でもある。
メキシコの俗謡で幾多のランチェーラ歌手たちの名唱で知られる「ラ・ジョローナ」(泣き女)をラテンカトリック諸国の“お盆”「死者の日」に合わせ、髑髏のメーキャップで歌いユーチューブに10月25日に発信。たちまち中米を中心に拡散。ラテン歌謡の定番「キサス・キサス・キサス」や、ランチェーラの女王ロラ・ベルトランの名唱で世界的な名歌となった「ククルクク・パロマ」も歌ってすでに大きな賛辞を受けている。リメイク「ククルクク~」は先年、ブラジルのカエターノ・ヴェローゾが歌った名唱を思い出すが、ガビーのそれはカエターノを意識しているように思える。
アルバム「ILUSION」は13曲を英語とスペイン語で歌いわけているが、それはガビーにとっては自然なこと。母語はスペイン語でも米国を拠点にして活動するガビーの日常会話は英語のほうが多い。そういう歌手が米国には多いわけだが、「けれど」とガビーは強調する。「祖国は私を呼び戻す、私の血がね。コンサートではいつも、『ソイ・デ・グァテマラ(私はグァテマラ人)』と最初にいうわ」と。ガビーが住むロス及びカリフォルニア州にはグァテマラ内戦中に亡命した多くの同郷人が住む。彼らは米国にあってもジャズは聴かない。そんな彼らに寄り添おうと思えば、「ラ・ジョローナ」の世界になるだろう。その泣き女の俗謡に、ガビーは不法越境の難行のなか、国境の川で溺れた子どもをもつ母親の嘆きを託す。
11月16日、米国ラスベガスで開催されるラテン・グラミー文化基金を創設したサルサ界の大御所となったマーク・アンソニーを称えるコンサートに参加する。