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変なヒト その4 氷りを砕き続けるオッサン

変なヒト その4 氷りを砕き続けるオッサン

 天気晴朗なれど北風強し、という師走の午後。処は浦和の喫茶店。月に一度の古書露天市。いつも、ここでは100円均一の古書しか買わない。もう5年ほど通い詰めているからテント張りの会計所にたむろす古書店主たちとはすっかり顔みしりだ。
 近在の幾つかの古書店が店を出すのだが、100円均一の本を漁っているだけで、大ぶりのエコバックがあふれてしまう。顔見知りの店主たちからは、おそらく「背取りのオッサン」と思われているだろう。最初は、「100円均一本しか買わないセコイ客」と思われていただろうが、いまは「背取り」へと昇格していると思う。実際、自分では不要だが、この本は絶対に貴重な「書籍」だと思い、ネットオークションに出したところ1万数千円になったものがあった。そういう背取りの成果が次回の本の漁りへと繋がっており、けっこうな小遣い稼ぎとなっている。・・・で、会計を済ませた後、いつも近く喫茶店によって買った本の再吟味となる。寒い日は暖を取り、暑い日は涼を取りながらの読書タイムは至福の時間であり、それにはコーヒーの芳香は欠かせない。
 さて、その日、コーヒーを飲みながら、古書に手にしていると、近くでガリガリ………と耳障りな音。なんだ・・・と顔をあげ、音の発する方向に視線を向けると、ひとりのオッサンが盛んに口をもぐもぐさせながら、氷を噛み砕いているのだった。小生より老けているが、おそらく同年輩だと思う。
 背を丸め、新書版のコミックを熱心に読んでいる。ガリガリはつづく、果断なくつづく・・・一度、耳についた音は灯油を導くホースのように小生の耳にとくとくとガリガリが引きりなしに注入される。たまらない。読書どころではない。ガリガリガリガリ・・・しかし、彼の健康な歯が羨ましくなる。ガリガリガリガリが憎たらしくなりはじめる。小生の歯はラテンアメリカ諸国をバックパッカーで乗り合いバスで旅をしつづけた性でボロボロだから、ガリガリやれない。癪に障ってくる。・・・音が突然、途切れる。やれやれと思っていると、そのオッサン、やおら立ち上がり、紙コップを手にするとレジに向かう。なんだ、と視線でおうと、氷をあつかましくも所望しているのだった。水もただなら氷もただのが日本の飲食店である。水も氷もただが常識としてまかり通っている国は、この地球上ではひじょうに珍しい。それだけでも日本という国はすばらしい国である。
 さて、そのオッサン、また自席に戻ると同じ姿勢でコミックを手にすると氷を紙コップから口に放り込むとまたぞろガリガリガリガリ・・・小生は本をテーブルに積んで、読まず捲らず、古書の汚れを拭うべく、テッシュに薄く水を含ませて、カバー表紙を拭いはじめた。この行為も、あるいは、愛書家特有の変態行為かも知れない。某書のカバーからヤニ汚れが取れる。某書からは小虫の薄い羽の附着が取れる。わけのわからない黒ずみが取れる。テーブルに汚れたテッシュが溜まってゆく。ガリガリに合わせてシュッシュッという感じである。ガリガリシュッシュッ、ガリガリシュッシュッ・・・そうして師走の午後が走ってゆく。小生も、あるいは「変なヒト」かも知れない。

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